この基礎編について
読み物『チップのカンブリア爆発』は、命令セット(ISA)という「見えない契約」を解説しました。そして契約には、それを実際に履行する“機械”が必要となります。この基礎編では、その機械とは何かを解説し、それを机の上にブロックとして組み上げながら、機械はどんな動きをしていくのかをやさしく見ていきます。レジスタ、ALU、5つの手順の流れ、CISCとRISC、RISC-Vの省電力やモジュール式ISA――そして「自分チップで、私たちは何を決める必要があるのか」を理解します。読み物(契約)と4講座(手を動かす)のあいだをつなぐコーナーです。
“入門講座”とは別ものです。 KiCad/FPGA/LibreLane は、手を動かす入門講座です(シリーズ上は「基礎01~03」)。この基礎編は講座ではなく、その前に読む土台「CPUはどんな仕組みで、何を選べるのか」です。コードも回路図も書きません。読み物のすぐ後、入門講座に入る前に読むと、各講座の作業の“意味”が見通しよくなります。
序章:コンピュータアーキテクチャって、そもそも何?
「アーキテクチャ」とは“契約”か“機械”か。3つの層でほどき、そして――5つの手順の流れは1985年に解かれた問題。だから私たちは設計し直すのではなく「選び・組み・確かめる」。基礎編で本当にやることを、最初に見渡します。
この章を読む第1章:レジスタとは ― CPUの手元の作業台
そもそも「覚えておく場所」がなぜ要るのか。倉庫(メモリ)と作業台(レジスタ)の違い、ビット幅、RISC-Vの32本。作業台が狭いから、命令は「載せて・計算して・戻す」になる。
この章を読む第2章:CPUを構成するブロック ― 部品カタログ
机にブロックを並べる。ALU・レジスタファイル・プログラムカウンタ・制御部・命令デコーダ・メモリ・クロック。「何があって、なぜ要るか」。これで一台のCPUになる。
この章を読む第3章:命令はこう実行される ― 5つの手順と流れ作業
フェッチ→デコード→演算→メモリアクセス→ライトバック。なぜ一気にできず、手順に分けるのか。流れ作業(パイプライン)の正体と、それが“選ぶ目とデバッグ地図”になる理由。
この章を読む第4章:CISCとRISC ― 複雑な命令か、単純な命令の積み重ねか
命令一個にどこまで仕事を詰めるか。多機能命令の利点と、機械が重くなる代償。なぜRISC-Vコアを選ぶのか、の判断につながる二つの設計思想。
この章を読む第5章:MIPS ― RISCの教科書、RISC-Vの祖先
バークレーとスタンフォードで芽吹いたRISC。MIPSはなぜ“教科書”になったのか。商用ISAの関所と、その教訓。MIPSからRISC-Vへ、開かれた共通語の物語。
この章を読む第6章:省電力 ― 契約の書き方が、電力にどう効くか
「省電力」の正体=動くトランジスタが少ないほど食わない。単純な命令はデコーダが軽い。必要なぶんだけ載せる。クロックと電力。ただし実際は実装と用途しだい。
この章を読む第7章:「モジュールを組み合わせる」の正体
二つの「モジュール」を切り分ける。①ハードの部品(ALU・FPU)と②ISAの語彙(RV32I+拡張)。拡張を載せると対応する部品が要る――だから“必要なぶんだけのチップ”が作れる。
この章を読む第8章:拡張カタログ ― 何があって、何のため
土台のRV32I、掛け算のM、不可分のA、浮動小数点のF/D、圧縮のC。RV32IMAC とは何のこと。用途から拡張を選ぶ、自分チップの“献立”。
この章を読む第9章:自分チップ「決めることシート」
コア・工程数・拡張・メモリ・周辺/バス・クロック・工程・検証。基礎編で学んだ判断材料を、一枚の表にまとめる。これが“指揮官”として下す設計判断の地図。
この章を読む終章:だから命令セットはこう設計される
機械を見たいま、ISAの形に“理由”が見える。読み物(契約)と基礎編(機械)が、ここでつながる。次は手を動かす――FPGA講座でPicoRV32が動く意味へ。
この章を読むこの基礎編を読む前に
本コーナーは、読み物『チップのカンブリア爆発』を読んだあと、4講座に進む前の共通の土台として用意した解説です。やさしさを優先して、細部をあえて単純化している箇所があります。コアの種類・性能や各社の動向は更新と変動が速く、見方によって解釈も分かれます。本文では特定の数値や断定を固定しないよう努めており、関心を持たれた事項は一次情報をご自身でご確認ください。
※初稿は2026年6月です。内容は検証しながら適宜更新します。「作ってみたい」と火が灯ったら、チップ・メーカーズ(4講座)へどうぞ。