English / 日本語
← 基礎編の入口へ戻る 第6章:第2部・契約の書き方で機械が変わる

第6章 省電力 ― 契約の書き方が、電力にどう効くか

この章のねらい。 序章で、「同じ契約でも、スマホの省電力コアと、パソコン級の高性能コアは、まるで違う機械になる」と言いました。その分かれ目の大きな一つが 電力 です。この章では、CPUは何で電力を食うのか、そして設計者は、機械の作りや契約の書き方で、電力をどう抑えるのかを見ます。第4章の「単純さ」が、ここでもう一度効いてきます。

6.1 なぜ電力が、これほど大事なのか

スマホ、イヤホン、センサー、腕時計――いまのチップの多くは、電池で動き、手のひらの中でを持ちます。電力は、速さと並ぶ、設計の最重要の制約です。同じ計算ができても、電力が倍なら、電池のもちは半分。「どれだけ少ない電力で動くか」が、そのチップが使えるかどうかを左右します。

6.2 CPUは、何で電力を食うのか

ざっくり、二つの出どころがあります。ひとつは 動的電力――トランジスタが 0↔1 を切り替えるたびに、ちょっとずつ食う電気。たくさん・速く切り替えるほど食います。ふつう、こちらが主役です。もうひとつは 静的電力――電源が入っているだけで、回路からじわじわ漏れる電気。回路が大きいほど、常に少しずつ漏れます。

動的電力は、ざっくり 「回路の大きさ × 電圧² × 速さ(周波数)」 のかけ算で決まる、と覚えると見通しがよくなります。下の図が、その効きどころです。

電力の出どころと、減らす効きどころ 動的電力は、回路の大きさ、電圧の2乗、速さ(周波数)のかけ算でだいたい決まる。回路を小さくするとRISCが効く。電圧は2乗で効く。速さは比例。静的電力はつけっぱなしの漏れで、使わない所は電源やクロックを止める。 動的電力 ≒ 回路の大きさ × 電圧² × 速さ(周波数) 回路の大きさ 小さく=RISCが効く × 電圧² 2乗で効く=下げると大 × 速さ(周波数) 下げると比例して減る 静的電力 = つけっぱなしの漏れ → 使わない所は、電源やクロックを止める(暇なコンロの火を消す)
動的電力は「回路の大きさ × 電圧² × 速さ」のかけ算でだいたい決まる。どれを下げても電力は減る(とくに電圧は2乗で効く)。静的電力は“つけっぱなしの漏れ”で、使わない所を止めると抑えられます。

6.3 どこを動かせば省電力になるのか ― 設計者のレバー

このかけ算と漏れを見れば、効きどころが見えてきます。設計者が握っているレバーは、おもに四つです。

設計者はここで決める。 何を:どれだけの速さで、どの電圧で回すか。要らない部品をどこまで削るか。どこを、いつ止めるか。どう決める:用途が求める速さを満たす範囲で、電圧と周波数をできるだけ低く。使わない時間が長い部分には、止める仕組みを入れる。なぜ:電力は電圧²と速さで効くので、必要以上に速く・高電圧で回すと、そのまま電池と熱に跳ね返るから。

6.4 同じ契約でも、機械は省電力にも高性能にもなる

ここで、序章の話がぐるりと戻ってきます。スマホの省電力コアと、パソコン級の高性能コアは、同じ命令セット(契約)でも、中の作りがまるで違う。省電力コアは、ゆっくり・低電圧で・小さく作り、こまめに止める。高性能コアは、速く・たくさんの部品で押す(そのぶん電力を食う)。契約は共有、機械は選択――省電力は、その「選択」の、いちばん分かりやすい現れです。

RISC-V が、スマホの省電力コアや、電池で動く小さな機器で好まれるのは、単純で小さく作れて、省電力に向くから。第4章・第5章で見た「単純さ」と「関所のない自由」が、ここで電力という形になって効いてくる、というわけです。

この章は、どの判断のための知識か。 速さ・面積・電力は、いつも綱引きです(第2章のクロックの話の続きでもあります)。省電力の効きどころ――小さく・低電圧・低周波数・止める――が分かると、自分チップを「電池で、どれだけ動かしたいか」から逆算して、コアや動かし方を選べるようになります。序章の“決めることマップ”でいう 「物理」(クロック何MHz・電力・面積予算)の、いちばん芯にあたります。次の第3部では、その「機械を、必要なぶんだけ選ぶ」を、RISC-Vのモジュール式ISAで具体的に見ます。