配置した部品を、実際の銅箔の線(トラック)でつないでいきます。配線の基本作法、電源とGNDを太くする理由(第3章のネットクラスがここで効きます)、基板の空き地をGND銅箔で覆う「ベタGND」の作り方、そして製造前の最終関門であるDRC(デザインルールチェック)をゼロにするまでを学びます。これは、別講座で学ぶシリコン設計のDRCと地続きの工程です。
6.1 トラック配線の引き方と45度配線
部品配置が完了したら、物理的な銅箔の線(トラック)を引いていきます。配線モードへの切り替えはショートカット X キーです(実際のキー割り当ては「設定」→「ホットキー」で確認できます)。配線したいパッドをクリックすると、ラッツネスト(予約線)に沿って、自動的に適切なすきま(クリアランス)を保ちながら配線が伸びます。もう一方のパッドでクリックすれば、その1本がつながります。
本ボードは2層基板(表・裏の2面に銅箔がある)です。表面(F.Cu)と裏面(B.Cu)を使い分け、配線が交差してしまうところは、片方を裏面に逃がします。層をまたぐときはビア(Via)という小さな穴で表裏をつなぎます(配線中に V キーでビアを打てます)。
- 配線開始:
Xキーを押し、始点のパッドをクリック。 - 配線確定: 終点のパッドでクリック(ダブルクリックで終了)。
- 層の切り替え: 配線中に
Vキーでビアを打つと、裏面へ移れます。 - やり直し:
Deleteで引いた線を消して引き直せます。 - 配線した線の分だけ、ラッツネストの予約線が消えていきます。予約線が全部消えれば配線完了です。
配線の慣習として、「線を直角(90度)に曲げず、45度で曲げる」という指針があります。KiCadは標準で45度に曲げてくれます。
「直角コーナーに酸が溜まって銅箔が過剰に削れる(アシッドトラップ)」という説明が広く流布していますが、これは手作業でエッチングしていた時代の名残で、現代の製造工程ではほぼ問題になりません。45度配線を推奨する実務上の理由は、(1) 配線を短くして基板面積を有効に使える、(2) パターンが整理されて見やすく再現しやすい、(3) 非常に高速な信号では直角部が反射の原因になりうる、の3点です。本講義のようなゆっくりした信号では(3)の影響は小さいですが、良い習慣として45度を徹底しましょう。
6.2 配線の太さ:信号と電源を分ける
配線の太さ(トラック幅)は、第3章で設定したネットクラスで決まります。ここでその設定が効いてきます。本ボードの配線幅の方針を、早見表で示します。
| 種類 | 対象ネット | トラック幅 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 信号線(Default) | SWIO, PC0?PC7, PD各種, PA1, PA2, NRST, LED_A | 0.3 mm | ほとんど電流が流れないので標準幅 |
| 電源線(Power・応用) | VCC, GND | 0.5 mm | 電流が流れるので太く |
| クリアランス(配線どうしの最小すきま) | 0.2 mm | ||
| ビア(外径/穴径) | 0.7 mm / 0.35 mm | ||
第3章で「Powerクラスを作ってVCC・GNDを0.5mmにする」応用をやっていれば、それらの線は自動的に太く引けます。もし基本形(Default一本)のまま来た場合でも、本ボードは消費電流がごくわずかなので、全部0.3mmで配線して問題なく動きます。ただし「電源は太く」は良い習慣なので、可能なら第3章のPowerクラス設定に戻って設定しておくことをおすすめします。特定の配線だけ太さを変えたいときは、その線を選んでプロパティから幅を個別変更することもできます。
6.3 ベタGND(GNDゾーン)で空き地を埋める
信号と電源の配線が終わったら、重要な工程の一つ、ベタGND(塗りつぶしゾーン)を作ります。これは、GNDを1本ずつ細い線で引く代わりに、基板の空いている隙間すべてを、GNDの銅箔で埋め尽くす手法です。
- 右側ツールバーの「塗りつぶしゾーンを追加」ツールを選びます。
- 最初にどの層に描くか聞かれるので、表面(F.Cu)を選び、ゾーン設定ダイアログでネットに
GNDを指定します。 - 基板の外形に沿って、少し内側を一回り囲むように四角を描きます。
- 同じ手順を裏面(B.Cu)でも繰り返します(表・裏の両面をGNDで固めます)。
- 最後に
Bキー(すべてのゾーンを塗りつぶし)を押すと、空き領域がGNDの銅箔で塗りつぶされます。
| 項目 | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| ネット | GND | この銅箔はGNDにつながる |
| 層 | F.Cu と B.Cu の両面 | 表・裏どちらもGNDで固める |
| クリアランス | 0.3 mm | 他の配線とのすきま |
| 最小幅 | 0.25 mm | 細い銅箔が途切れないように |
基板の空き地を全部「GND(0V基準)」の銅で埋めてしまう手法です。電気的には「広い帰り道(リターンパス)」を用意することになり、ノイズに強くなります。見た目も、配線がGNDの海に浮かぶ島のようになり、ぐっと本格的な基板に見えます。部品を動かしたり配線を変えたりしたら、最後に必ず
B キーで塗り直すのを忘れないでください。塗り直さないと、古い形のまま残ってしまいます。
6.4 DRC(デザインルールチェック)をゼロにする
配線とベタGNDが終わったら、製造データを工場へ送る前の最終関門、DRC(デザインルールチェック)を実行します。これは、製造工場の機械の限界を超えた細すぎる線や、ショートしかねない近すぎる配線、つなぎ忘れがないかを、KiCadが全数検査してくれる機能です。別講座で学ぶシリコンLSI設計の「DRC」と、まったく同じ考え方の工程です。
- まず「ファイル」→「基板設定」→「デザインルール(制約)」で、製造工場が許す最小値を入力します。本ボードのネットクラス(配線0.3mm、クリアランス0.2mm)は、格安ファブの標準スペックに十分収まります。
- 「検査」→「デザインルールチェック(DRC)」を開き、「実行」を押します。
- 問題があれば、一覧と基板上のマーカーで示されます。ゼロになるまで直します。
| 項目 | ファブの最小値(目安) | 本ボードの値 | 余裕 |
|---|---|---|---|
| 最小配線幅 | 0.127 mm(5mil) | 0.3 mm | 2倍以上あり ? |
| 最小クリアランス | 0.127 mm(5mil) | 0.2 mm | 余裕あり ? |
| 最小ビア径 | 0.45 mm 前後 | 0.7 mm | 余裕あり ? |
エラーが0になるまで配線を直し続けてください。エラーが残ったまま発注すると、工場で製造を断られるか、最悪の場合ショートした不良基板が届きます。特に見落としやすいのが「未接続」──配線し忘れの予約線(ラッツネスト)が残っているケースです。DRCの結果に「Unconnected items(未接続)」が出たら、その箇所を配線してください。DRCがゼロになって初めて、次の発注工程(第6章)へ進めます。
上の表の「ファブの最小値」はあくまで目安です。最小配線幅・クリアランス・ビア径などの製造スペックは、工場やプラン、時期によって変わります。実際に発注する際は、JLCPCBなど各社の公式ページで最新の製造能力(Capabilities)を必ず確認し、その値をKiCadのデザインルールに反映してからDRCをかけてください。本ボードは余裕のある設計なので、たいていの格安プランにそのまま通ります。
- ラッツネストの予約線を、すべて実際の配線(トラック)に変えた
- 信号線は0.3mm、電源(VCC・GND)は0.5mmで配線した
- 表・裏の両面にGNDゾーンを作り、
Bキーで塗りつぶした - DRCを実行し、エラー(未接続・クリアランス違反)がゼロになった
ここまでで、基板の設計データは「完成」です。これは半導体設計でいう「テープアウト(製造データの確定)」に相当する、ものづくりの大きな節目です。次章では、この完成データを製造用のデータ(ガーバー)に書き出し、実際に工場へ発注し、部品を調達します。