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この章の学習のねらい
第3章で完成させた回路図(論理)を、いよいよ基板(物理)の世界へ持ち込みます。回路図から基板へ部品を転送し、ブレッドボードに挿せる寸法で基板の外形を描き、手はんだで失敗しない部品配置を行います。配置は次章の配線の良し悪しを決める土台です。この章でも、守るべき寸法と各部品の置き場所を具体的な数値と早見表で示します。

5.1 回路図から基板へ部品を転送する

第3章でアノテーションとフットプリントの割り当てを済ませたら、その論理データを基板エディタ(PCBエディタ)へ移します。基板エディタを起動し、キーボードの F8 キー(またはメニューの「ツール」→「回路図から基板を更新」)を押します。

開いたウィンドウで「基板を更新」を実行すると、回路図の各部品に割り当てたフットプリント(実物の形)が、ひとかたまりになってマウスカーソルに付いてきます。基板を描きたい場所でクリックして、いったん仮置きします。

用語:ラッツネスト(Ratsnest=ネズミの巣)
部品を仮置きすると、部品どうしをつなぐ細い白い線がたくさん表示されます。これがラッツネストです。「こことここは電気的につなぐ約束です」という予約線で、まだ実際の銅箔配線ではありません。回路図で置いたグローバルラベルの結線情報が、この予約線として現れています。部品を動かすと予約線も追従するので、この線が最も短く・交差しない位置を探すのが配置のコツです。線のもつれを「ほどく」感覚で部品を並べると、次章の配線が楽になります。

5.2 基板の外形を描く:寸法を数値で死守する

部品を配置する前に、基板の「土地」──外形を決めます。本ボードはブレッドボードに挿して使うため、外形の寸法には絶対に守るべき数値があります。まず、その数値を掲げます。

本ボードの基板寸法(この数値を守る)
項目数値意味・理由
基板の幅17.78 mm(=700mil)ブレッドボードに挿さる横幅
基板の高さ(縦)33.02 mm(=1300mil)全部品が収まる縦長
J1・J2の列間15.24 mm(=600mil)ブレッドボード中央の溝をまたぐ幅
ピンヘッダのピッチ2.54 mm(=100mil)ブレッドボードの穴間隔
最重要寸法:J1とJ2の列間 600mil(15.24mm)
本ボード設計で唯一にして最大の「絶対に守る寸法」が、左右のピンヘッダ(J1・J2)の列間 600mil = 15.24mm です。ブレッドボードは中央に溝があり、その両側に穴の列があります。この溝をまたいで挿すには、左右の足の間隔がちょうど600milでなければなりません。ここが少しでもずれると、完成した基板がブレッドボードに挿さらなくなります。幅700milの基板の中で、左右の足を600mil離す──この関係を頭に入れてください。
外形の描き方
  1. 基板エディタの右側にあるレイヤー選択から、Edge.Cuts(基板外形レイヤー)を選びます。基板を実際に切り出す線は、必ずこのレイヤーに描きます。
  2. グリッド(マス目)を分かりやすい値に設定します。たとえば 1.0mm0.5mm、あるいはmil系なら 50mil にすると、寸法を合わせやすくなります。
  3. 四角形を描くツール(矩形)で、幅17.78mm × 高さ33.02mm の長方形を描きます。座標を見ながら、左下と右上の角を指定すると正確です。
  4. この長方形の枠の中に、次項で部品を配置していきます。
mil(ミル)とmm(ミリメートル)

基板の世界では、mil(ミル、1000分の1インチ)という単位がよく使われます。ブレッドボードやピンヘッダがインチ系の規格で作られているためです。1mil = 0.0254mm。よく出る換算は、100mil=2.54mm(ピンヘッダのピッチ)、600mil=15.24mm(列間)、700mil=17.78mm(基板幅)です。KiCadは表示単位をmmとmilで切り替えられる(Ctrl を絡めたショートカットや、左のツールバーで切替)ので、寸法に応じて使い分けると楽です。

5.3 部品を配置する:どこに、どの向きで置くか

外形が描けたら、その枠の中に部品を並べます。配置に唯一の正解はありませんが、本ボードでは「手はんだのしやすさ」と「次章の配線のしやすさ」を両立する、次の配置を推奨します。まず全体像を早見表で示します。

部品配置の早見表(基板を縦長に置いたときの位置)
部品置く位置向き(回転)理由
U1(マイコン)基板の中央0°(そのまま)全配線の中心。左右に足が出る
J1(左ヘッダ1×12)基板の左端・縦一列ブレッドボードの左側の足
J2(右ヘッダ1×12)基板の右端・縦一列右側の足。J1とちょうど600mil離す
J3(書込端子1×3)基板の上端90°(横向き)書き込み器をつなぐ入口。端に寄せる
C1(パスコン100nF)U1の電源ピンのすぐ近く(下側)必要に応じ回転電源ノイズ吸収は「近さ」が命
R2(プルアップ10kΩ)基板の上部(SWIO・J3の近く)必要に応じ回転書き込み信号に関わる
R1(LED制限1kΩ)基板の下部LEDとセット
D1(LED)基板の下部・R1の隣R1と直列。見やすい位置に
部品を動かす・回すKiCadの操作
  • 移動: 部品にマウスを重ねて M キー(Move)。カーソルに付いてくるので、置きたい場所でクリック。
  • 回転: 移動中、または部品を選んで R キー。90°ずつ回ります。
  • 裏返す: F キーで部品を裏面に移せますが、本ボードは全部品を表面に置くので、通常は使いません。
  • 配置しながら、ラッツネスト(予約線)が短く・交差しないかを意識します。J1・J2はマイコンの左右の足とつながるので、対応する側に置くと線がもつれません。

配置で特に気をつける2点

その1:パスコン(C1)は、マイコンの電源ピンにできるだけ近づける

100nFのパスコン(C1)は、電源の揺らぎを吸収する部品です(第2章)。この効果はマイコンの電源ピン(VCC=9番、GND=7番)にどれだけ近いかで決まります。遠いと配線が長くなり、効果が薄れます。U1の電源ピンのすぐ脇、ラッツネストが最短になる位置に置いてください。「電源ピンの真横の特等席」を、C1のために空けておくイメージです。

その2:部品を近づけすぎない(こて先の干渉)
手はんだでは、はんだごての先が部品に届く必要があります。部品どうしが近すぎると、片方をはんだ付けする熱でもう片方が動いたり外れたりします。特にTSSOP-20のマイコンの足のすぐ横にチップ部品を置くときは、最低でも1.5mm程度の余裕を空けてください。「近づけたいパスコン」と「近づけすぎない用心」──このバランスが配置の腕の見せどころです。
この章のゴール
  • F8で回路図から基板へ部品を転送した
  • Edge.Cutsレイヤーに 17.78×33.02mm の外形を描いた
  • J1・J2の列間を 600mil(15.24mm)で死守した
  • 早見表どおりに全部品を配置した(U1中央、J1/J2左右、J3上、C1はU1電源ピン近く)
  • パスコンは近く、部品どうしは1.5mm以上──のバランスで置いた

部品が並んだら、次章ではいよいよ配線です。ラッツネストの予約線を、実際の銅箔パターンに変えていきます。配線の太さ(第3章のネットクラス)や、DRC(デザインルールチェック)による検証もここで行います。