序章:このコースで作るものと、作り方
このコースで作るのは、電源レギュレータ(AMS1117)を載せ、手持ちの5V(USBやモバイルバッテリー)を挿せば単体で動くCH32V003ボードです。KiCad入門で組んだ最小構成のボードに、電源部を一つ足した応用ボードにあたります。違うのは作り方で、回路の結線をコードで書き、配線の大半を自動配線に任せ、残りを人が仕上げます。この序章では、作るものと、その作り方の全体像を先に示します。
0.1 このコースで作るもの
基板そのものは大げさなものではありません。KiCad入門の最小構成CH32V003ボードに、AMS1117(5V→3.3V)を一つ足します。これで書き込み器をつながなくても、5Vを挿せば単体で動きます。
KiCad入門との違いは、作り方にあります。あちらでは回路図に名札(グローバルラベル)を置き、部品を手で並べ、配線を一本ずつ引きました。このコースでは、結線を回路図ではなくコードで書き、配線の大半を自動配線ツールに任せます。人が手を動かすのは前後――設計のルールを決めるところと、機械が引けなかった線を仕上げるところです。
「結線をコードで書く」「配線を自動で引く」という道具は、それぞれ誰かが、どこを面倒と見て、どこを機械に渡せると考えたかの産物です。このコースでは、その道具を実際に自分のPCで動かしながら、なぜこの形になったのかを確かめます。よく効く場面も、人の手が要る場面も、両方そのまま見ていきます。
0.2 作り方の全体像
このコースは最後まで、次の役割分担で進みます。
【このコースのワークフロー:役割分担】
結線(論理) 物理設計 自動配線 検算
「どこをつなぐか」 「どう引くか」 「線を引く」 「間違い探し」
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│ skidl │─────▶│ KiCad │───▶│FreeRoute │───▶│ DRC │
│ (コード) │ ネット │ 幅/ビア │ .dsn │ 自動配線 │ .ses │ 機械が │
│ │ リスト │ ベタGND │ │ │ │ 全数検査│
│ │ │ 部品配置 │ │ │ │ │
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▲ ▲ │
│ 人(真実の結線表) │ 人(盤面を見て判断) │
│ └───────── 引けなかった線は人が引く ◀┘
この分かれ方は、作業の性質から出てきます。結線は、突きつめれば「どの名前とどの名前をつなぐか」の対応表で、文字で書けます。だから skidl(Python)に渡せます。一方、その線を板の上でどう引き回し、どこでビアを裏に逃がすかは、盤面を見ての物理的な判断で、自動配線が大半を引き受け、混んだ一本は人が手で仕上げます。できた配線が製造ルールに収まっているかの検算は、機械(DRC)が全数でやります。
コードに向くところ、盤面の判断が要るところ、数え上げの検査――それぞれを得意な担い手に割り振ります。どこまでを任せ、どこからを自分でやるか。その線引きを、実際に手を動かして確かめるのがこのコースです。
0.3 前提:KiCad入門をやってから
このコースは、KiCad入門で回路図・ネットクラス・部品配置・ベタGND・DRC を一度手を動かした人を対象にしています。まだの方は、先にKiCad入門で最小構成のボードを一枚作ってから戻ってきてください。
コードや自動化を使うからといって、この基本を飛ばすと、自動配線が引いた線の良し悪しも、DRCの警告の意味も、判断しにくくなります。逆に一度手で作ってあれば、結線をコードに置き換える話が具体的にわかります。
「チップ・メーカーズ」シリーズは、基板(KiCad)→ 論理回路(FPGA)→ シリコン(LibreLane)→ 実践編、という流れです。このコースは、その最初の「基板」を、手作業からコードと自動化に置き換えて扱い直す応用編で、KiCad入門とFPGA入門の間に入ります。なお終章では、skidl以外の新しい道具(atopile、tscircuit)にも触れますが、これは使いこなすためではなく、いまどこにどんな動きがあるかを知るための短い紹介です。
0.4 ツールは変わっていく
この分野は動きが速く、ツールのバージョンや操作画面、インストール手順は変わります。そこでこのコースでは、変わりにくい考え方(どこをコードで書き、どこを人がやり、どこを機械に任せるか)を本文で説明します。バージョン番号やコマンド、ボタンの位置は変わりやすいので注記にまとめ、最新は各ツールの公式サイトで確かめてください。手順どおりに動かないときは、本文の考え方に戻り、操作は公式の最新情報で補ってください。
コードで書いた回路を、自分のPCで基板の設計データにし、DRC(検算)まで通すことです。完成データを配って眺めてもらう形ではなく、KiCad入門と同じく、指示書と早見表を頼りに自分で一つずつ組み上げます。次章では、まず今回作るボードを具体的に見ていきます。