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第1章:今回のボード ― 電源レギュレータを載せて5Vで自立させる

この章の学習のねらい
このコースで作る一枚を、ここで決めます。作るのは、KiCad入門で組んだ最小構成のCH32V003ボードに、電源レギュレータ(AMS1117)を一つ足して、手持ちの5Vを挿すだけで単体で動くようにしたボードです。この章では、完成像・なぜ電源部を足すのか・追加する部品・5Vの入れ口の選び方・全体の結線マップまでを、先にまとめて見ます。ここで決めたボードを、次章から「結線をコードで書く」作り方で組み上げます。この章ではまだKiCadもコードも開かず、作るものの姿を確認します。

1.1 ゴール像:手持ちの5Vで、書き込み器なしで動くボード

KiCad入門で作った基本形は、3.3Vで動くボードでした。ただしその3.3Vは、書き込み器(WCH-LinkE)の3V3ピンから借りていた電源です。言いかえると、書き込み器をつないでいる間しか、電源がありませんでした。基板を単体で動かそうとすると、いきなり「3.3Vをどこから持ってくるのか」という問題にぶつかります。

今回のボードは、ここを一箇所だけ変えます。5Vを挿せば、それだけで動くようにします。回路の中身(CH32V003、パスコン、LED、書き込み端子…)は基本形のまま。そこに、5Vを3.3Vに変換する電源レギュレータを足すだけです。足すのは一箇所ですが、使い勝手はずいぶん変わります。

【今回作るボードの姿】

  5V入力 ───────▶ [ AMS1117-3.3 ] ───────▶ 3.3V ───────▶ ボード全体
  (USB / モバイル      レギュレータ            (VCC)        CH32V003ほか
   バッテリーなど)      5V を 3.3V へ                       =基本形のまま

  * 書き込み器をつながなくても、5Vを挿せば単体で動く

1.2 なぜ電源レギュレータを足すのか(世の中は5Vだらけ)

「なぜ5Vを入り口にするのか」は、身の回りを見れば説明が要らないくらいです。USBケーブル、モバイルバッテリー、USB充電器、Arduinoの5Vピン――手元にある電源は、たいてい5Vです。一方、CH32V003が欲しいのは3.3V。この「よくある5V」と「欲しい3.3V」のあいだを埋める部品が、電源レギュレータ(LDO)です。

これは特別な発想ではなく、ボードを単体で動かそうとした人がたどり着く、いちばん短い道です。実用品にしようとすると誰もが同じ場所――「3.3Vをどこから」――でつまずき、そして手近な5Vから作る、という同じ答えに行き着きます。だからこのボードも、その一手を採ります。凝ったことはしません。

1.3 「足す/足さない」を、要件から逆算する

ここで、KiCad入門の応用編(第4章)で出てきた考え方を思い出しておきます。機能を足すかどうかは、「足せるから足す」ではなく、要件から逆算して決める――という見方です。判断の物差しとして、次の4つを自分に問います。

拡張を判断する4つの問い(電源レギュレータに当てはめると)
  • 要件から逆算しているか? ── 「書き込み器なしで、手持ちの5Vで動かしたい」。実用品にするなら、ほぼ必須。◎
  • ピンは足りるか? ── レギュレータは電源ライン(VCC/GND)に入るだけで、貴重な汎用IOを一本も使いません。これは大きな利点。◎
  • 難易度とコストは見合うか? ── 追加はレギュレータ1個+コンデンサ2個程度。配線も簡単。低い。◎
  • 「足さない」も設計判断。 ── 今回、水晶やUSBは載せません。今回の要件(=5Vで自立)には要らないからです。

このコースが電源部だけを足して、水晶やUSBを載せないのも、この問いの結果です。「自立して動く」という要件には電源部が要る。けれど、正確なクロックやPCとのUSB通信は、今回の目的には要らない。要るから足す、要らないから足さない――このボードの構成は、その線引きで決めています。水晶やUSBを足したくなったら、KiCad入門の第4章がそのまま案内になります。

1.4 追加する部品(U2・C2・C3・J4)

基本形に足すのは、次の4点だけです。3.3Vレギュレータの定番 AMS1117-3.3 と、その前後に置くコンデンサ2個、そして5Vの入力端子です。

電源部の追加部品
部品値・型番役割手はんだ基準での評価
U2AMS1117-3.3(SOT-223)5V→3.3V変換ピンが大きく手はんだ容易 ◎
C210μF(入力側)入力電源の安定化2012サイズで統一可
C310μF(出力側)出力の安定化(発振防止)同上
J4ピンヘッダ2ピン等5V入力端子
なぜ出力コンデンサが「必須」なのか

AMS1117のようなレギュレータは、出力側にコンデンサ(10μF以上)を入れないと、動作が不安定になったり発振したりします。データシートにも明記された要件です。「レギュレータ単体を置けば3.3Vが出る」のではなく、入力・出力の両側にコンデンサをセットで置いて、はじめて安定して働きます。ここを省くと、原因のわかりにくい不安定動作に悩まされます。C2・C3は「おまけ」ではなく、レギュレータの一部だと考えてください。

「ドロップアウト電圧」で入力の下限が決まる

AMS1117のドロップアウト電圧は約1.2Vです。「入力は出力より最低1.2V高くないと、正しく3.3Vを出せない」という意味です。5V入力なら 5 − 3.3 = 1.7V の余裕があるのでOK。もし「3.7Vのリチウム電池から3.3Vを作りたい」なら余裕が足りず、もっとドロップアウトの低いLDO(XC6206やHT7333など)が必要になります。入力が何Vかで選ぶレギュレータが変わる――これも「要件から逆算」の一例です。今回は5V入力と決めているので、AMS1117でちょうどよく収まります。

1.5 5Vをどこから入れるか(給電コネクタの選択)

5Vを、どの「差し込み口」から受けるか。これも一つの設計判断です。よくある選択肢を、手はんだのしやすさも含めて並べます。

給電コネクタの選択肢(5V入力用)
コネクタ利点注意点・欠点手はんだ
DCジャック/端子台/ピンヘッダ最も簡単・確実。抵抗不要。手はんだ最易専用ケーブルや外部電源が要る場合がある
USB Type-A(オス)PCやUSB充電器に直挿しできる。抵抗不要基板が大きくなる。向きの制約
Micro-USB(Micro-B)安価で普及。抵抗不要でVBUSから素直に5Vが取れる耐久性が低め。やや旧世代△(細かい)
USB Type-C今の主流。ケーブルが手に入りやすく、裏表なく挿せるCC端子に抵抗が必須(下記)。端子が細かい△(細かい)
USB Type-Cから5Vを取るには「CC抵抗」が要る
USB Type-Cは、挿すだけでは5V(VBUS)が出てきません。「私は電源を受け取る機器です」と相手に伝える必要があり、そのためにCC1・CC2の2本の端子を、それぞれ 5.1kΩ の抵抗でGNDに落とす(プルダウンする)必要があります。この抵抗が無いと、電源側が「機器がつながっていない」と判断して給電しません。CC1とCC2を1本にまとめず、別々に5.1kΩでプルダウンするのが要点です。まとめると、一部のケーブルで正しく給電されない不具合が起きます。「Type-Cは手軽だが、抵抗2本を忘れると動かない」――ここは最もはまりやすい落とし穴です。

今回は、まず作りやすさで選ぶ

これも要件から逆算です。今回のボードは「5Vで確実に動くこと」が目的なので、まずは抵抗が要らず手はんだも楽なピンヘッダ(またはDCジャック・USB-A)を入り口にします。「今風で取り回しの良いものにしたい」なら Type-C ですが、そのときはCC抵抗2本を忘れずに。作りやすさと今風の使い勝手のどちらを取るかで、入り口は変わります。このコースの本文では、手はんだ最優先で J4=ピンヘッダ2ピンを基準に進め、Type-Cは「慣れたら挑戦」の位置づけにします。

1.6 全体像:基本形+電源部の結線マップ

足す部品と入り口が決まったので、電源部の結線をまとめておきます。レギュレータの周りは、次の一枚で足ります。

【電源レギュレータ部の接続】

  5V入力(J4) ──┬── U2:IN         U2:OUT ──┬── VCC(3.3V, 基板全体へ)
               │                          │
             C2(10μF)      U2:GND        C3(10μF)
               │             │            │
              GND ──────────┴───────────┴── GND
電源部の結線(ネット割当)
ネットつなぐ場所備考
VIN_5V(新規)J4-1(5V入力), U2-IN, C2-1今回あらたに増える電源ネット
VCC(既存の3.3V)U2-OUT, C3-1 + 基板全体のVCC基本形のVCCがそのまま繋がる
GNDJ4-2, U2-GND, C2-2, C3-2 + 基板全体のGND基本形のGNDと共通
基本形の結線は、そのまま据え置き

今回あらたに増えるのは、上の電源部の結線(とくに新規ネット VIN_5V)だけです。CH32V003まわりの結線――SWIO、リセット、パスコン、LED、書き込み端子、J1・J2に引き出すGPIO群――は、KiCad入門の基本形(第3章の全結線早見表)とまったく同じです。つまり今回のボードは「基本形の全結線 + 電源部の3ネット」。この足し算の関係を頭に置いておくと、次章から結線をコードで書くときに、どこが既存でどこが新規かが見通せます。

注意:3.3Vの供給元が「2つ」になる
電源部を足すと、3.3Vの出どころが「書き込み器の3V3」と「レギュレータの出力」の2つになりえます。両方を同時につなぐと、電源どうしがぶつかって故障の原因になります。書き込み時は書き込み器から、単体動作時はレギュレータから――というように、どちらか一方だけが電源を供給するようにします(ジャンパで切り替える、書き込み時はJ4の5Vを外す、など)。「電源が二重にならないか」は、電源を足すとき必ず確認するポイントです。この点は、後の章で配置・配線を考えるときにもう一度戻ってきます。

1.7 次章への橋渡し

この章のゴール
  • 作るボードを決めた ── 基本形のCH32V003ボード + 電源部(AMS1117)で、5Vを挿せば単体で動く一枚
  • 足す部品を把握した ── U2(AMS1117-3.3)/C2・C3(10μF)/J4(5V入力、まずはピンヘッダ)
  • 電源部の結線を把握した ── 新規ネット VIN_5V と、既存の VCCGND への合流
  • 基本形の結線はそのまま据え置き、と確認した

これで「何を作るか」が決まりました。KiCad入門なら、この結線を回路図エディタで一つずつグローバルラベルを置いて作っていくところです。このコースは、そこを変えます。次章では、「なぜ結線を回路図ではなく“コード”で書くのか」――その理由と、コードで書くと何が変わり、何が人の手に残るのかを、道具を持ち込んだ人たちの着眼をたどりながら見ていきます。