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第5章:KiCadに取り込み、配線のルールを自分で決める

この章の学習のねらい
前章でコードから作ったネットリストを、KiCadの基板エディタに取り込みます。ここからは「物理」の担当――部品を板の上に並べ、そして前章(4.5)でわざと保留した線の太さ・ビアの大きさ・GNDのベタ塗り範囲を、自分で決めていきます。ここは、前回のプロジェクトで飛ばしてしまい、あとで困った一手です。今度は正面から、一つずつ決めていきます。実際の配線(線を引く作業)は次章の自動配線に任せます。この章は、その下ごしらえ(配線のルール決め)までです。

5.1 ネットリストをKiCadに取り込む

前章で generate_netlist() が出した .net ファイルには、「どの部品の、どのピンが、どのネットにつながるか」がすべて入っています。これをKiCadの基板エディタ(Pcbnew)に取り込むと、各部品のフットプリント(実物の形)が現れ、つながる約束のある端子どうしが、細い予約線でつながれます

用語:ラッツネスト(予約線)(KiCad入門でも登場)
取り込んだ直後、部品どうしを結ぶ細い線がたくさん表示されます。これがラッツネストで、「こことここは電気的につなぐ約束です」という予約線です。まだ本物の銅の配線ではありません。前章でコードに書いた結線(ネットリスト)が、この予約線として目に見える形になったものです。この予約線を、あとで自動配線が本物の銅線に変えていきます。

取り込みのやり方(概要)
  • skidlには、ネットリストから基板ファイルを直接作る機能や、ネットリストをKiCadの基板エディタに取り込むやり方があります。どの方法が使えるか、手順の細部はskidlとKiCadの版で変わるので、公式の案内に合わせてください。
  • 取り込みに成功すると、基板エディタの画面に、部品のフットプリントが固まって現れ、ラッツネストが表示されます。
  • まずはこの「フットプリントとラッツネストが出た」状態にたどり着くことが、この項のゴールです。
取り込み方法の具体は、公式が正

「ネットリストから基板を作る/取り込む」ための関数名やメニュー操作は、時期によって変わります。本章は「取り込むと何が起きるか」という考え方を示すので、実際のコマンドや操作手順は、skidl・KiCadそれぞれの最新の公式ドキュメントで確認してください。うまく取り込めないときは、まず「ネットリストのファイルが正しく出力できているか(前章の目視確認)」に立ち返ると、切り分けが楽になります。

5.2 部品を並べる

フットプリントが現れたら、板の上に並べます。配置のセオリーは、KiCad入門・第5章とまったく同じです。今回は電源部(U2・C2・C3・J4)が増えているので、その置き場所だけ足して考えます。ここでは要点だけを早見表で振り返ります(詳しい理由と手順は、KiCad入門・第5章を参照してください)。

配置の要点(KiCad入門・第5章の復習+電源部の追加)
部品置き場所ねらい
U1(マイコン)基板の中央左右に足が出る配線の中心
J1・J2(左右ヘッダ)基板の左右の端・縦一列ブレッドボードに挿す足
C1(パスコン)U1の電源ピンのすぐ近く近いほど効く(電源ノイズ吸収)
U2・C2・C3(電源部)まとめて一箇所(J4の近く)入力C2・出力C3はU2のそばに
J4(5V入力)基板の端(挿しやすい所)外から5Vを入れる入口
いちばん大事な寸法:J1とJ2の間は600mil(15.24mm)
KiCad入門でも念を押した、唯一絶対に守る寸法です。ブレッドボードに挿すために、左右のヘッダJ1・J2の列の間隔を600mil(15.24mm)にします。ここがずれると、完成した基板がブレッドボードに挿さりません。電源部が増えても、この寸法だけは動かさないでください。

電源部は「近くにまとめる」

電源部の3点(U2・C2・C3)は、一箇所にまとめて置くのがコツです。とくに、入力側コンデンサC2と出力側コンデンサC3は、それぞれレギュレータU2のそばに置きます(第1章で「入力・出力の両側にコンデンサをセットで」と学んだとおり)。まとめておくと、次章の自動配線でも電源まわりがきれいにまとまります。手はんだのために、部品どうしを近づけすぎない(こて先が入る余裕を残す)のも、KiCad入門と同じです。

5.3 配線ルールその1:ネットクラスで線の太さを決める

ここが、前章4.5で「コードには書かない。KiCadで決める」と保留した部分です。線の太さ(トラック幅)や、配線どうしの最小のすきま(クリアランス)、ビアの大きさを、KiCadのネットクラスという仕組みで決めます。コード側で「これは電源系だ」と意図を示したところに、ここで実際の数値を与えるわけです。

本ボードの数値は、KiCad入門・第6章と同じでいけます。信号は細く、電源(VCC・GND)は太く。早見表にします。

本ボードの配線ルール(KiCadのネットクラスで設定する)
種類対象トラック幅ねらい
信号(Default)SWIO・GPIO各種・LED_A など0.3 mm電流が小さいので標準幅
電源(Power)VCC・GND(+今回の VIN_5V)0.5 mm電流が流れるので太く
クリアランス(配線どうしの最小すきま)0.2 mm
ビア(外径/穴径)0.7 mm / 0.35 mm
KiCadでの決め方(概要)
  1. 「ファイル」→「基板設定」→「ネットクラス」を開きます。
  2. Power というクラスを作り、トラック幅を 0.5mm に設定します。
  3. そのPowerクラスに、VCC・GND・VIN_5V のネットを割り当てます。
  4. 残りの信号は Default(0.3mm)のままにします。
  5. クリアランス(0.2mm)とビア(0.7/0.35mm)も、ここで設定しておきます。
今回あらたに増えた VIN_5V も、電源として太く

今回のボードでは、電源ネットが VCC・GND に加えて VIN_5V(5V入力)も増えました。これも電気が流れる電源線なので、Powerクラスに入れて0.5mmで配線します。前章のコードで「電源系はこの3本」と整理しておいたのは、ここで一緒に太くするための下ごしらえでした。コードで示した意図(電源系のまとまり)が、KiCadの数値(0.5mm)としてかたちになる――これが「論理はコード、物理はKiCad」の具体例です。

この数値は、格安ファブに十分収まる

信号0.3mm・クリアランス0.2mm・ビア0.7mmという値は、JLCPCBなど格安の基板工場が作れる最小値(配線・すきまで0.127mm前後、ビア0.45mm前後)より、ずっと余裕があります。つまりこの設定なら、たいていの格安プランでそのまま作れます。ただし各社の製造能力は時期で変わるので、実際に発注する前には公式の最新値を確認し、その値をKiCadの基板設定にも反映してください(発注は第7章)。

5.4 配線ルールその2:GNDのベタ塗り範囲を決める

もう一つの配線ルールが、ベタGNDです。GNDを細い線で一本ずつ引く代わりに、基板の空いている所を、まるごとGNDの銅で埋めるやり方です。この章では、その「塗る範囲」を決めるところまでをやります。実際に塗りつぶすのと、その後のチェック(DRC)は、次章で自動配線が終わってから行います。

ベタGNDの範囲を決める(概要)
  • 右側の「塗りつぶしゾーンを追加」ツールを選びます。
  • 層は表面(F.Cu)を選び、ネットに GND を指定します。
  • 基板の外形に沿って、少し内側を一回り囲むように四角い範囲を描きます。
  • 同じことを裏面(B.Cu)でも行い、表・裏の両面をGND用に確保します。
GNDベタの設定(KiCad入門・第6章と同じ)
項目意味
ネットGNDこのベタはGNDにつながる
F.Cu と B.Cu の両面表・裏の両面をGNDで固める
クリアランス0.3 mm他の配線とのすきま
最小幅0.25 mm細い銅が途切れないように
「塗る」のは、自動配線のあと

この章では範囲を決めるだけで、実際に銅で塗りつぶすのは次章の最後です。理由は、先に信号や電源の配線(次章の自動配線)を済ませてから塗ったほうが、きれいに埋まるからです。ベタGNDは、部品を動かしたり配線を変えたりするたびに塗り直しが要るので、いちばん最後に塗るのが素直な順番です。ここでは「表と裏に、GND用のベタの範囲を用意した」状態にしておきます。

5.5 取り込みのかみ合わせを確かめる

配線ルールまで決めたら、次章の自動配線に渡す前に、コードで書いた結線が、板の上に正しく写っているかを確かめます。目で見る確認と、機械の点検の下ごしらえです。

確かめること
  • ラッツネスト(予約線)が、早見表どおりか。 予約線のつながり方が、前章の結線(=KiCad入門・第3章の早見表)と食い違っていないかを、ざっと目で追います。とくに電源部(VIN_5V・VCC・GND)が、意図どおりつながっているか。
  • 未接続が残っていないか。 つなぐ約束のある端子が、予約線として全部現れているか。コードのつなぎ忘れは、ここで予約線の“抜け”として見えることがあります。
  • 部品の値・フットプリントが正しいか。 コードで指定した値(100nF、10μF、AMS1117-3.3 など)とフットプリントが、取り込んだ部品に反映されているか。
ここで食い違いを見つけたら、コードに戻る

もし予約線のつながりが早見表と違っていたら、KiCadで手直しするのではなく、前章のコードに戻して直すのがこのコースの流儀です。結線(論理)の正本は、あくまでコードのほう。コードを直して、ネットリストを作り直し、もう一度取り込みます。二度手間に見えますが、「結線はコードが正、物理はKiCadが正」という担当を崩さないことが、あとあと混乱を防ぎます。

5.6 次章への橋渡し

この章のゴール
  • コードのネットリストをKiCadに取り込み、フットプリントとラッツネストを出した
  • 部品を並べた(J1・J2は600mil、電源部はまとめて)
  • 配線ルールその1:ネットクラスで線の太さを決めた(信号0.3mm/電源0.5mm、VIN_5Vも電源)
  • 配線ルールその2:表・裏にGNDベタの範囲を用意した(塗るのは次章)
  • ラッツネストが早見表どおりか、かみ合わせを確かめた

配線のルールが決まりました。部品の位置も、線の太さも、GNDベタの範囲も、これで用意できています。次章では、FreeRoutingという自動配線ツールに、予約線を本物の銅線へ変えてもらいます。ただし、何もかも任せきりにはしません。どこまでを自動に任せ、どこからを人がやるのか――その線引きを、実際に手を動かしながら確かめていきます。