← 講義ポータルへ戻る
この章の学習のねらい
いよいよ「CH32V003 ProMicro互換ボード」を、自分の手で作りはじめます。この章ではまず、そもそも何を作るのか(ボードの全体像)と、なぜこの構成にするのか(実在ボードとの比較)をはっきりさせます。そのうえで、この教材の大原則である「手はんだで作る」を宣言し、その原則にもとづいて必要な部品を一つずつ選んでいきます。部品ごとに「値・サイズ」「なぜその値なのか」「どこで買えるか」まで踏み込みます。最後に、選んだ部品をKiCadでどう探して並べるかを説明します。

2.1 これから作るもの:CH32V003 ProMicro互換ボード

本講義でこれから設計・製造するのは、「CH32V003 ProMicro互換ボード」という小さな基板です。ひとことで言えば、10セント(十数円)で買える格安32bit RISC-VマイコンCH32V003を、ブレッドボードに挿して使える小さな基板の形にまとめたものです。

まず「ProMicro」から説明します。ProMicroは、電子工作の世界で広く使われている小型のArduino互換ボードの定番です。指の先ほどの大きさで、左右2列のピンが2.54mmの間隔(ピッチ)で並び、そのままブレッドボードに挿して使えます。この「小さくて、ブレッドボードに素直に挿さる」形が便利なので、多くの互換ボードがこの形を踏襲しています。

本講義の基板を「ProMicro互換」と呼ぶのは、この便利な形(ブレッドボードに挿さる横幅とピン配置)を受け継いでいるからです。中身のマイコンはArduinoの定番であるATmega系ではなくCH32V003に置き換わっていますが、「ブレッドボードに挿して、手軽に実験できる小さな基板」という使い勝手はそのまま、というわけです。

用語:ブレッドボードとピッチ
ブレッドボードは、はんだ付けせずに部品を挿し込むだけで回路を試せる、穴がたくさん空いた実験用の板です。この穴は2.54mm間隔(0.1インチ=100mil)で並んでいます。ピッチとは、この「穴と穴の間隔」のこと。部品のピンがこの2.54mmピッチに合っていれば、ブレッドボードに素直に挿さります。本ボードの左右のピンヘッダも、この2.54mmピッチで作ります。

2.2 なぜこの構成にするのか:実在するCH32V003ボードとの比較

CH32V003は世界中の電子工作家に愛されていて、すでに多くの人が独自の基板を設計し、その回路図やデータをオープンソースで公開しています。私たちがゼロから設計する前に、まずこうした実在する先人の作例を見ておきましょう。「どんな作り方があるのか」を知ったうえで、「その中で自分たちは何を選ぶのか」を考えるのが、遠回りに見えて確実な学び方です。

参考にする実在のCH32V003ボード(いずれもオープンソース)
  • cnlohr / ch32fungithub.com/cnlohr/ch32fun
    本講義でも後半で使う、CH32V003開発の事実上の標準ツールキット。多数の作例とともに、最小限の回路でCH32V003を動かすための情報が集約されています。「まず何が最低限必要か」の基準として最も信頼できる出発点です。
  • AlexanderMandera / CH32V003-USB-DevBoardgithub.com/AlexanderMandera/CH32V003-USB-DevBoard
    ブレッドボード互換で、USB機能まで載せた高機能な作例。オープンハードウェアライセンス(CERN-OHL-W-2.0)で公開されています。「フル装備にするとこうなる」という上限の例として参考になります。
  • mitxela / ch32v003devgithub.com/mitxela/ch32v003dev
    TSSOPとQFNの両方のパッケージに対応し、DIP幅に収めてブレッドボードで使う小型USB基板。「一枚の基板で複数パッケージに対応する」といった発展的な工夫が学べます。

これらの作例を見ると、多くがUSBコネクタや水晶発振子(クロック源)まで載せた「全部入り」の方向を目指していることが分かります。それはそれで魅力的なのですが、部品点数が増え、USB端子のような細かい部品のはんだ付けも必要になり、最初の一枚としては難しくなります

そこで本講義は、あえて逆の方向??「最初の一枚として、確実に手はんだで完成できる、いちばんシンプルな構成」を選びます。USBは載せません。水晶も載せません(CH32V003は内蔵クロックだけで動きます)。載せるのは、マイコンを動かすための最小限の部品と、書き込み・動作確認に必要なものだけ。飾りを削ぎ落とした、教材にふさわしい素直な構成です。応用(USBを足す、水晶を足す等)は、この基本形を完成させたあとで、上記の作例を道しるべに各自が発展させられます。

2.3 大原則の宣言:この教材は「手はんだ」で作る

ここで、本講義を貫く大原則をはっきり宣言します。

本講義の大原則:すべて手はんだで作れることを最優先する

本講義で選ぶ部品は、すべて「はんだごて一本と、普通の道具で、自分の手ではんだ付けできる」ことを最優先します。工場の実装ロボットや、高価な設備を前提にしません。したがって部品選びの基準は、次の3つです。

  1. 手はんだが可能なこと??ピン間隔が狭すぎない、極端に小さすぎない。
  2. 入手しやすいこと??秋月電子など国内、あるいはLCSC等の通販で普通に買える。
  3. 安いこと??一つ数円?数十円の定番品を選び、失敗しても惜しくない。

これから選ぶ一つ一つの部品が、この3基準にどう当てはまるかを見ていきます。「なぜこの値・このサイズなのか」の答えは、多くがこの3基準に行き着きます。

2.4 部品リスト:一つずつ、値・サイズ・理由・入手先

本ボードに必要な部品は、たったの8点(種類としては6種類)です。少ないでしょう? これがCH32V003の「最小構成で動く」という魅力の表れです。一つずつ、なぜそれが必要で、なぜその値・サイズなのかを見ていきます。

① マイコン本体:CH32V003F4P6(1個)

基板の主役、頭脳にあたる部品です。型番の末尾に注目してください。CH32V003にはいくつかのパッケージ(外形)があり、末尾「F4P6」がTSSOP-20という20本足のパッケージを指します。

なぜTSSOP-20を選ぶのか(手はんだ基準)
  • CH32V003には、QFN20(末尾U6)という、より小さく足が本体の下に隠れるパッケージもあります。しかしQFNは中央の放熱パッドと相まって手はんだが非常に難しく、初めての一枚には向きません。
  • 一方TSSOP-20(F4P6)は、足が本体の横に「かもめの翼」のように出ていて、こて先が届き、目でも確認できます。0.65mmというピン間隔は狭いものの、後述する「引きはんだ」という技(第7章)で確実に付けられます。手はんだできる現実的な下限、という位置づけです。

入手先の例:秋月電子通商(通販コード 118061)で国内在庫があり、即日?翌日に入手できます。海外通販のLCSCでは1個0.14ドル前後(型番 C5187096)とさらに安価です。電源の逆挿しなどで壊すこともあるので、予備を含めて数個持っておくと安心です。

② パスコン(バイパスコンデンサ):100nF セラミックコンデンサ(1個)

マイコンの電源ピンのすぐ近くに置く、小さなコンデンサです。マイコンが動作すると電源に一瞬の揺らぎ(ノイズ)が生じますが、この揺らぎを吸収し、電源を安定させる「電気の小さな貯水池」の役割をします。これが無いとマイコンが不安定に誤動作することがあり、地味ですが必須の部品です。

なぜ100nF(0.1μF)なのか
  • 100nFは、デジタルICの電源デカップリング(パスコン)の世界共通の定番値です。CH32V003のデータシートが示す標準応用回路も、この値を使っています。迷ったら100nF、と覚えてよいくらいの鉄板です。
  • 種類はセラミックコンデンサ(積層セラミック)を選びます。安価で、この用途に最適です。

入手先の例:秋月電子、LCSC、AliExpress等で、チップタイプが数円?。まとめ買いが基本です。

③ プルアップ抵抗:10kΩ(1個)

書き込み信号線(SWIO)につなぐ抵抗です。SWIOは1本の線で書き込みとデバッグを行う繊細な信号で、何も接続せず宙ぶらりん(フロート)にしておくとノイズを拾って不安定になります。これを防ぐため、抵抗を介して電源側に軽く引っ張り上げておきます。これを「プルアップ」と呼びます。

なぜ10kΩなのか
  • プルアップ抵抗は、強すぎる(抵抗値が小さい)と無駄な電流が流れ、弱すぎる(抵抗値が大きい)とノイズに負けます。その中間で、デジタル信号のプルアップに広く使われる定番が10kΩです。
  • ch32funの公式ドキュメントも「SWIO(PD1)をフロートさせるな」と明記しており、この抵抗はその対策にあたります。

入手先の例:抵抗は最も基本的な部品で、どこでも安価に入手できます。

④ LED電流制限抵抗:1kΩ(1個)

動作確認用のLED(次の⑤)に直列につなぐ抵抗です。LEDは、そのまま電源につなぐと電流が流れすぎて焼き切れます。適切な抵抗を直列に入れて、電流を安全な量に制限する必要があります。

なぜ1kΩなのか(簡単な計算)
  • 本ボードの電源は3.3V、LEDの順方向電圧はおよそ2Vです。抵抗にかかる電圧は 3.3 ? 2 = 1.3V。ここに1kΩを使うと、流れる電流は 1.3V ÷ 1000Ω ? 1.3mA になります。
  • 1.3mAは、LEDが十分見える明るさで光り、かつマイコンのポートにも優しい、ちょうどよい電流です。「もっと明るくしたい」なら抵抗値を下げ(例:470Ω)、「もっと省電力にしたい」なら上げます(例:2.2kΩ)。この関係を理解しておくと、応用が効きます。

⑤ 動作確認用LED(1個)

基板が生きているかを「光」で教えてくれる部品です。本ボードでは、マイコンのPC0という足につながっており、プログラムでPC0をオン/オフすると点滅します。

このLEDの本当の役割は「基板の検品」

LEDを点滅させること自体(いわゆる「Lチカ」)は、プログラムとしては誰でもできる初歩です。しかしこのLEDの本当の価値は、自分がはんだ付けした基板の上で光ることにあります。光れば、「書き込みが正しく通った」「はんだ付けの導通が取れている」「電源が生きている」??これらが一度に確認できます。ソフトの練習ではなく、自作ハードの検品ツール。だからこそ、基板に載せる意味があります。

⑥ ピンヘッダ:2.54mmピッチ 1×12(2本)と 1×3(1本)

基板をブレッドボードに挿すための「足」、そして書き込み器をつなぐための端子です。

なぜ2.54mmピッチのピンヘッダなのか
  • 2.54mmピッチは、ブレッドボードとユニバーサル基板の世界標準の穴間隔です。この規格に合わせておけば、手持ちの実験環境にそのまま挿せます。
  • ピンヘッダは長い連結品(1×40など)を買って、必要な長さにニッパーで折って使うのが一般的で経済的です。まず折って、ブレッドボードに挿し、その上に基板を載せてはんだ付けすると、まっすぐ付けられます(詳しくは第7章)。
部品まとめ(手はんだ前提・入手容易・安価)

価格は変動します。最新の価格・在庫は各販売店(秋月電子、LCSC、AliExpress等)の公式ページで必ずご確認ください。受動部品(抵抗・コンデンサ・LED)は最小販売単位が10?100個入りのことが多く、自然と予備が確保できます。

本ボードの部品リスト(全8点/6種類)
記号部品値・仕様数量選定理由(手はんだ基準)
U1CH32V003F4P6TSSOP-201手はんだできる現実的下限のパッケージ
C1セラミックコンデンサ100nF1電源安定化の世界標準値
R2抵抗10kΩ1SWIOプルアップの定番値
R1抵抗1kΩ1LED電流を約1.3mAに制限
D1LEDお好みの色1基板の検品(動作確認)用
J1・J2ピンヘッダ2.54mm 1×122ブレッドボード互換の足
J3ピンヘッダ2.54mm 1×31書き込み器の接続端子

チップ部品(抵抗・コンデンサ・LED)のサイズは、次で説明する2012(0805)サイズで統一します。

チップ部品のサイズ:なぜ2012(0805)で統一するのか
  • チップ抵抗・コンデンサ・LEDには様々な大きさがあり、「2012」「1608」などの数字で表されます。2012は約2.0mm×1.2mmの大きさで、手はんだできるサイズの中では扱いやすい部類です。
  • これより小さい1608(0603)は、初めての手はんだにはピンセットで扱いづらく、なくしやすい。これより大きいと基板が膨らみます。「手はんだできる最小に近く、それでいて扱える」ちょうどよい妥協点が2012です。全部品を2012でそろえると、道具や手順も統一できて楽になります。

2.5 KiCadでシンボルを探して並べる

買う部品が決まりました。次は、これらを回路図エディタ(Schematic Editor)の画面に、部品の記号(シンボル)として並べていきます。「どのシンボルを、どうやって探すか」を、部品ごとに具体的に示します。

シンボルを1個置く基本操作(共通)
  1. 回路図エディタの右側ツールバーにある「シンボルを追加」アイコン(オペアンプの三角のような記号)をクリックします。または、回路図の何もない場所で A キーを押します(キー割り当ては「設定」→「ホットキー」で確認できます)。
  2. シンボル選択ウィンドウが開き、上部に検索窓があります。ここに部品名を打ち込むと、候補が絞り込まれます。
  3. 目的のシンボルを見つけたらダブルクリック(または選んでOK)。シンボルがマウスカーソルに付いてくるので、置きたい場所でクリックして確定します。
  4. 続けて同じ部品を置けます。終わりたいときは Esc キーを押します。

この操作を、次の表のとおり部品ごとに繰り返します。検索窓に打つ言葉と、選ぶべきシンボルを正確に記します。

各部品のシンボルの探し方(KiCad 10 標準ライブラリ)
置くもの検索窓に打つ選ぶシンボル個数
マイコン U1CH32V003CH32V003F4P6(MCU_WCH_CH32V0 内)1
抵抗 R1, R2RR(Device 内・長方形の抵抗)2
コンデンサ C1CC(Device 内・無極性コンデンサ)1
LED D1LEDLED(Device 内・三角と矢印の記号)1
ピンヘッダ J1, J2Conn_01x12Conn_01x12(Connector_Generic 内)2
書込端子 J3Conn_01x03Conn_01x03(Connector_Generic 内)1
CH32V003はKiCad 10標準ライブラリに入っています

検索窓に CH32V003 と打つと、MCU_WCH_CH32V0 というライブラリの中に CH32V003F4P6 が見つかります(2023年末にKiCad公式ライブラリへ追加されたものです)。もし何も出てこない場合は、KiCadのバージョンが古いか、ライブラリが読み込まれていない可能性があります。その際は「設定」→「シンボルライブラリを管理」でライブラリ一覧を確認してください。なお、CH32V003のシンボルを自分でゼロから作る方法は、応用として発展編で扱います(既製のものが標準にある以上、まずはそれを使って設計の流れ全体を体験するのが近道です)。

並べ方のコツ:配置は「主役を中心に、脇役を周りに」

シンボルは、やみくもに置くのではなく、あとで線をつなぐとき(次章)に分かりやすくなる位置関係を意識して並べます。回路図の配置には正解が一つあるわけではありませんが、初めてなら次の考え方が失敗しにくいです。

  1. 主役のマイコン(U1)を、画面の中央に置く。 すべての配線がここから伸びるので、中心にあると全体が見渡せます。
  2. ピンヘッダ(J1・J2)を、マイコンの左右に置く。 マイコンの左側の足はJ1へ、右側の足はJ2へ??というように、実際の基板の配置(左右のヘッダ)と対応させると、頭の中で基板をイメージしやすくなります。
  3. 書き込み端子(J3)は、上のほうにまとめて置く。 電源と書き込み信号という「外とのつなぎ目」なので、端に寄せておくとすっきりします。
  4. パスコン(C1)は、マイコンの電源ピンの近くに置く。 パスコンは「電源ピンの直近に置くことに意味がある」部品なので、回路図でもマイコンのそばに描いておくと、その意図が自分にも伝わります。
  5. LED(D1)と制限抵抗(R1)、プルアップ抵抗(R2)は、関係する相手の近くに。 R1とD1はセットなので隣同士に、R2は書き込み信号(SWIO)に関わるのでその近くに置きます。

この段階では、まだ線は一本もつなぎません。部品を「置く」だけです。配置が済んだら、いよいよ次章で、これらの部品を「グローバルラベル」という方法でつないでいきます。線を一本も引かずに回路を完成させる、KiCadならではのやり方です。

?? 注意するポイント:この章では「買う」と「並べる」まで
はやる気持ちを抑えて、この章ではまだ配線しません。部品を選び(買い)、KiCadの画面に並べる??ここまでを確実にやっておくことが、次章のスムーズな配線につながります。並べたシンボルは、まだ部品番号が「R?」「C?」のように疑問符が付いた仮の状態です。この疑問符を確定させる作業(アノテーション)も次章で行いますので、今は気にせず並べてください。
KiCadの操作は「動画教材」で補うのが近道

KiCadの入門書は、実は数が多くありません。理由のひとつは、KiCadがほぼ毎年のようにバージョンアップし、画面や操作が変わっていくため、書籍の出版サイクルが追いつきにくいことにあります。せっかく本を買っても、手元のバージョンと画面が違う、ということが起こりがちです。

一方で、KiCadの使い方については、インターネット上に分かりやすい解説動画が数多く公開されています。実際にマウスがどう動き、どのメニューをクリックするのかを目で追えるので、文章だけでは掴みにくい操作の流れも、動画ならすんなり理解できることが多いはずです。本テキストは「何を・なぜ作るか」の考え方と、確実に組める指示書の提供に重点を置いています。細かなボタン操作やKiCadの画面の見方でつまずいたら、動画教材を積極的に探して活用してください。

探すときのコツは、お使いのバージョンに近い動画を選ぶことです。「KiCad 10」のようにバージョン番号を添えて検索すると、画面が近いものが見つかりやすくなります。古いバージョンの動画でも考え方は通じますが、メニューの位置などが違う場合があるので、その点だけ意識しておくとよいでしょう。バージョンが変わっても古びない「原理」は本テキストで、日々更新される「最新の操作」は動画で??という二本立てが、遠回りのようでいて確実な学び方です。