第7章 技適(電波法)の扱い ― 無線を「積まない」設計と、その法的な足場
前章で、私たちのSoCは外付けの無線モジュールを通じて「ネットへの声」を得ました。けれど電波を扱う以上、避けて通れない話があります。電波法と、その中核にある技適(技術基準適合証明等)です。本章は回路ではなく法の足場を扱います。本講座が一貫して採ってきた「無線は自分の基板に積まず、技適済みのモジュールを外付けして"有線機器"として扱う」という設計思想(方針[M])が、なぜ安全側の選択なのか――その理由を、断定を避けながら確かめます。
7.1 なぜ「技適の章」が要るのか
第5〜6章で作った通信は、UART・SPI・I2C・Ethernet(W5500)と、いずれも有線、もしくは有線扱いの外付けでした。これは偶然ではなく、本講座の設計判断です。電波を自分で出す瞬間に、回路の話は法の話に変わります。ここを曖昧にしたまま「とりあえず無線モジュールを載せて電波を出す」のは、教材として無責任だと著者は考えます。だからこそ、外付け無線(第6章)の直後に、その法的な足場を一章立てて確かめます。
回路として正しい
UARTでモジュールに繋ぐ・SPIでW5500に繋ぐ――結線とソフトは第5〜6章で確認した。ここは技術の問題。
法として成り立つか
電波を出す主体が誰で、その設備が技術基準に適合しているか――ここは法の問題。技術が正しくても、ここを外すと使えない。
7.2 技適とは何か ― 二つの制度の総称(断定を避けて概観)
「技適」は通称で、より正確には技術基準適合証明等を指す、とされています。日本では無線局の開設は原則として免許制ですが、総務省令で定める小規模な無線設備(特定無線設備)については、あらかじめ電波法に基づく基準認証を受け、定められた表示(技適マーク)が付いていれば、免許手続きの省略等の特例を受けられる――という枠組みだと案内されています。その「基準認証」には、大きく二つの系統があるとされます。
「技適」と通称される二つの制度(概観・詳細は総務省で確認)
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① 技術基準適合証明 … 無線設備を「1台ごと」に試験・審査して適合を証明
少量生産・試作・評価用に向くとされる
② 工事設計認証 … 「設計(型式)と品質管理の方法」を対象に認証
量産用に向くとされる(最終製品は認証後に製造)
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・どちらも登録証明機関が行う制度とされ、合格すると技適マークと番号が付く
・技適番号は 総務省 電波利用ホームページ の検索で確認できる、とされる
※用語の揺れに注意(断定回避)。 「技適」が①だけを指す場合と、①②をまとめて呼ぶ場合があり、文脈で揺れます。本講座では「技適済み=①または②のいずれかの基準認証を受け、技適マークと番号が付いた状態」という緩い意味で用い、厳密な区分や最新の定義は総務省・登録証明機関の一次情報に委ねます。
7.3 技適は「素のチップ」でなく「無線設備(モジュール/完成品)」に付く
ここが本講座の設計思想の急所です。第6章でも触れたとおり、無線ICの素チップ単体は、ふつう技適を持たない――技適番号が付くのは、それを載せて条件を満たしたモジュール製品や完成機器のほうだ、とされています。さらに、工事設計認証済みのモジュールをその認証の条件の範囲内で組み込む場合には、最終製品側で改めて認証を取り直さずに済む場合がある、とも案内されています。
7.4 本講座の設計思想[M] ― 無線は積まず、技適済みモジュールを外付けする
以上を踏まえた本講座の方針を、改めて明示します。これは著者の設計判断であって、法解釈の断定ではありません。
- 自分の基板にRF(無線回路)を載せない。 2.4GHz帯などのアナログRF・アンテナ整合は、そもそもFPGAのデジタル論理では作れず(第6章6.7)、電波を出せば技適が正面に立つ。だから載せない。
- 技適済みの既製モジュールを外付けする。 ネットへの出口は、UARTで対話できる技適済みモジュールに委ねる(第6章6.5/6.6)。電波を出す設備はモジュール側。
- 自作SoCは"有線機器"として振る舞う。 こちらが触るのはUART/SPIといった有線インターフェースだけ。電波の適合性の主役をこちらに引き込まない。
- 断定せず、現物と一次情報で確認する。 使うモジュールの技適番号・認証条件・使い方の制約は、その都度確認する。
※「有線扱い」は万能の免罪符ではありません(重要)。 外付けにしても、モジュールを認証条件の外で使う・改造する・想定外の周波数や出力で動かすと、前提が崩れます(次の7.6)。本講座が「有線で叩く」と言うのは、あくまで技適済みモジュールを、その条件の範囲で使うという意味です。
7.5 「自分で電波を出す」ことの二重の壁
第6章6.7の「いつかRF以外を自前で」という夢を、法の側から見直します。無線を自作して電波を出すには、二つの壁を同時に越えねばなりません。
壁①:物理(アナログRF)
変調・復調、電力増幅、アンテナ整合といった高周波アナログは、デジタル論理(FPGA)では作れない領域。これは第6章で確認済み。
壁②:法(技適・免許)
仮に物理を越えても、電波を出す無線設備として技術基準への適合を示す必要がある。個人が自作設備で適合を証明するのは、現実には極めて重い、とされる。
だから本講座は、第6章で示したとおり、この夢を「有線で叶える形」へ翻訳します。すなわち、RFアナログを自作するのではなく、Ethernet MAC層を自前のWishbone IPとして内蔵し、外付けは枯れたPHYチップだけにする方向です。これなら壁②(技適)は無関係になり、壁①も「作れないRFアナログ」ではなく「枯れた有線PHY」になります。「通信を自分で設計したSoC」という核心は、有線でちゃんと叶う――という整理です(第6章6.7/序章・終章の旗印と一致)。
7.6 適合は「構成・改造・用途」で変わる ― 断定回避の核心
技適でいちばん誤解されやすいのが、「技適済みモジュールを使えば、何をしても合法」ではないという点です。認証はある設計・ある条件のもとでの適合を示すものなので、その前提を外れると、適合の根拠も外れ得る、とされています。
前提が崩れやすい典型(いずれも「断定はしない」が、注意が要るとされる例) ─────────────────────────────────────────────────────────────── ・モジュールを「改造」する(アンテナ交換・出力変更・ファーム書換 等) ・認証で想定された「条件」と違う使い方・周波数・接続をする ・技適マーク/番号の無い素チップや海外専用品を、そのまま国内で電波を出す ・「有線で叩いているから大丈夫」と、モジュール側の制約を確認しない ─────────────────────────────────────────────────────────────── → どれも「適合の前提」に関わる。可否は一次情報で、その都度確認する。
7.7 実験・試作のための制度がある、とされる(特例制度)
「では、技適の無い珍しい機器を、開発や実験でちょっと試したいときは?」――この需要に応える制度が用意されている、とされています。いわゆる「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」です。概要として、次のように案内されています(詳細・最新・適否は必ず総務省で確認。本講座は条件を断定しません)。
- 目的の限定。 実験・試験・調査などに限られ、商用には使えないとされる。
- 期間の上限。 届出日から180日以内に限って国内で使用可能、とされる(終了時は廃止届が要るとされる)。
- 条件付き。 対象の機器・周波数帯に範囲があり、技適に相当する外国認証への適合、または無線従事者による技術基準適合の確認など、一定の条件を満たす必要がある、とされる。
- 届出制。 総務省へ届け出たうえで使う(Web届出システムが案内されている)。同じ目的・規格での単純な再延長はできない、とされる。
※本講座での位置づけ(著者の判断)。 この特例は「自作SoCに無線を内蔵してよい」という話ではなく、あくまで技適相当の条件を満たす既製機器を、短期の実験で届出のうえ使うための制度だと理解しています。本講座の本筋(技適済みモジュールを外付け=有線で叩く)とは別レーンの選択肢として、存在と概要だけを正直に紹介します。実際に使うなら、対象・条件・手続きを総務省で確認してください([改訂マーカー:特例制度の最新条件])。
7.8 一次情報へ ― どこを見るか
本章は「断定しない」を貫いてきました。その代わり、判断の拠り所になる一次情報の入口を示します。価格・番号・可否・制度の細部は変動するので、必ずその時点で確認してください。
総務省 電波利用ホームページ/電波利用ポータル
基準認証制度の概要、技適番号の検索、特例制度の案内、各種告示・様式。制度面の一次情報の中心。
登録証明機関
技術基準適合証明・工事設計認証を実際に行う機関(TELEC・JATE・ビューローベリタス等とされる)。試験・認証の実務情報。
※引用元の扱い。 上記の機関名・URL・制度の細部も時期で変わり得るため、本文には固定の番号・期限・対象表を埋め込みません。最新は各サイトでご確認ください。本テキストの記述と一次情報が食い違う場合は、一次情報を優先してください。
7.9 この章のまとめ
- 電波は技術の話から法の話になる。 だから外付け無線(第6章)の直後に、法の足場を一章で確かめた。
- 技適=技術基準適合証明等(①技術基準適合証明/②工事設計認証の総称)で、付く先は素チップでなく無線設備(モジュール/完成品)、とされる。
- 方針[M]の裏づけ: 無線を積まず技適済みモジュールを外付けし、自作SoCは"有線で叩く"。電波を出す設備の主体をこちらに引き込まない。ただし条件の範囲内で使うことが前提。
- 適合は構成・改造・用途で変わる: 「技適済みなら何でもOK」ではない。可否は断定せず、その都度一次情報で確認。
- 実験には特例制度がある、とされる: 届出制・180日・条件付き・商用不可。存在と概要のみ紹介、詳細は総務省で。
- 拠り所は一次情報: 総務省(電波利用ホームページ/ポータル)と登録証明機関。本テキストは値も可否も固定しない。
無線の「声」を、法の側から安全に着地させる足場ができました。第5〜7章で、私たちのSoCは有線(と有線扱いの外付け)で世界とつながる神経を、法的にも保守的な形で備えたことになります。次章からは、本ボードの差別化の主役へ進みます――先輩ボードがどれも弱かった音声を、FPGAの並列処理・DSP・PWMを活かして主役級に引き上げる、第8章:音声サブシステムです。