序章:なぜFPGAなのか
この講座は、FPGAという「何度でも書き換えられる回路」を使って、本物の論理回路設計を手元で・安く・何度でも試しながら学ぶ実践講座です。むずかしい前提知識は要りません。まずは肩の力を抜いて、「FPGAって何が嬉しいの?」「この講座で何を作るの?」という全体像を眺めるところから始めましょう。
この講座だけで、FPGAはひと通り使えるようになります。 第1章から第6章まで進めば、自分で書いた回路を実機で光らせ、スイッチやLEDで遊び、最後にはRISC-VのCPUまで動かせます。FPGA単体で完結する内容なので、「FPGAをともかく触ってみたい・遊んでみたい」という方は、そのまま読み進めてください。(ASIC設計の講座と組み合わせる話は、興味のある方向けに第7章へ独立させてあります。)
0.1 FPGAは「書き換えできる回路」
FPGAは Field Programmable Gate Array の略です。直訳すると「現場(Field)で、後から書き換え(Programmable)できる、論理回路(Gate Array)」。名前そのものが性質を言い当てています。同じ1枚のFPGAに、今日はLチカ回路を、明日はCPU回路を、と中身の回路を別物に作り変えられるのです。
ここがふつうのマイコンとの決定的な違いです。マイコンは回路(CPU)が固定で、変えられるのはその上で動くソフトウェアだけ。FPGAはその一段下――回路そのもののつなぎ方を書き換えます。
ふつうのマイコン(回路は固定)
決まった回路が焼かれていて、変えられるのはその上で動くソフトだけ。料理にたとえると「キッチンの設備は固定、作る料理(レシピ)を替える」イメージ。
FPGA(回路そのものを書き換え)
回路の配線図そのものを入れ替えられる。たとえるなら「キッチンの設備のレイアウトごと組み替える」イメージ。論理回路を自分で設計して動かせる。
たとえるなら(複数の比喩で): FPGAは、「何度でも組み替えられるブロック玩具(レゴ)の基礎板」のようなものです。一度組んだ作品をばらして、別の作品を組み直せます。あるいは「書いては消せるホワイトボード」に近いとも言えます。素の定義に戻すと:FPGAは「内部の論理回路の構成を、設計データによって繰り返し書き換えられる集積回路」です。その中身が実際どうなっているかは、第1章で実物を分解して確かめます。
0.2 FPGAで何が嬉しいのか ― 手元で、安く、何度でも
「回路を書き換えられる」と聞いても、最初はありがたみが分かりにくいかもしれません。FPGAの嬉しさは、本物の論理回路設計を、製造を待たず・追加費用なく・何度でも試せるところにあります。
製造を待たなくていい
チップを工場で作ってもらうと数週間〜数ヶ月かかります。FPGAなら、設計を数十秒〜数分で書き込んで即座に動かせます。
失敗してよい
何度でも書き換えられるので、間違えても怖くありません。「作って → 動かして → 直して」をその場で回せる。学習にも試作にも最適です。
手元で完結する
必要なのは入門ボードとPCと無償ソフトだけ。追加費用をほとんどかけずに、本物の論理回路を自分の机の上で動かせます。
この講座の合言葉: 「作って、動かして、遊ぶ」。FPGAは、教科書を読むだけでなく、自分の手で回路を動かして確かめられるのが最大の魅力です。本講座は、その楽しさを軸に進めます。
💡 コラム:FPGAは、実際どんなところで使われている?
FPGAは学習用のおもちゃではなく、産業の最前線で広く使われている実用デバイスです。たとえば、通信の基地局やネットワーク機器、放送・映像処理、計測器、産業機械の制御、近年ではAIの推論処理の高速化などに使われているとされます。
FPGAが選ばれる理由は、「専用チップ(ASIC)を作るほどの量は出ないが、ソフトだけでは速度が足りない」という場面に、ちょうどはまるからです。回路を後から書き換えられるので、仕様変更や試作にも強い。だからこそ、新製品の開発現場や、少量多品種の機器で重宝されます。本講座で学ぶ「自分でRTLを書いてFPGAで動かす」スキルは、こうした実務にそのままつながっていきます。
0.3 この講座で作るもの・使う道具
本講座では、Basys 3 という入門ボード1枚だけで完結する題材を、やさしい順に作っていきます。
この講座の道のり(すべて Basys 3 だけで完結)
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第4章 最初のLチカ 自分で書いたVerilogでLEDを点滅
第5章 作って遊ぶ スイッチ入力・複数LED・7セグメント表示
第6章 RISC-V CPU CPUコアを載せ、プログラムでLEDを制御
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「自分の設計が、自分のFPGAの上で動く」を一歩ずつ体験する
使う道具は次の3つです。いまは名前を眺めるだけで十分で、準備やインストールは第2章・第3章でひとつずつ進めます。
FPGAボード:Basys 3
Digilent社の入門向けFPGA開発ボードとされ、学習用の定番の一つです。LEDやスイッチ、7セグメント表示が最初から載っているので、追加部品なしですぐ遊べます。心臓部にArtix-7というFPGAが載っています。
FPGAチップ:Artix-7
Basys 3 に載っている書き換え可能な半導体の本体(型番 XC7A35T)。第1章で、この中身を分解して「論理回路の部品がどう敷き詰められているか」を見ます。
開発ソフト:Vivado(無償版)
設計・合成・書き込みを行う統合開発ソフト。無償の Standard Edition(旧WebPACK相当)でArtix-7を扱えるとされ、Basys 3 と組み合わせれば、執筆時点では追加費用なしで始められるとされます。
※ライセンス体系について(執筆時点の注意): Vivadoのライセンス体系は、2026.1リリースから段階的な新方式へ移行する予定とされています。無償で使える入門向けの枠は維持される見込みとされますが、提供形態の細部は今後変わり得ます。導入時は第3章の手順とあわせて、配布元の最新の公式案内をご自身で確認してください(価格・バージョン・対応デバイスは変動するため、本講座では特定の数値を断定しません)。
0.4 (興味のある方へ)この講座は、シリーズの一部でもあります
本講座は、それ単体でFPGAを学べるように作っていますが、じつは「半導体設計民主化」シリーズの一つでもあります。FPGAで書いた回路(RTL)は、そのままASIC(自分専用に焼く本物のチップ)の設計にも使えます。「FPGAで何度でも試して固めてから、ASICとして焼く」という流れは、ものづくりの王道です。
※連携の話は第7章に独立させています。 ASIC設計講座(LibreLane)との双方向の経路――FPGAで作ったRTLをASICへ渡す方法/ASIC向け設計をFPGAで事前検証する方法――は、第7章【連携編】にまとめました。FPGAだけ学びたい方は、この章は読み飛ばして構いません。 第1〜6章だけで、FPGAの学習は完結します。
準備運動はここまでです。次の第1章では、Basys 3 の心臓部であるArtix-7 を“分解”して、「書き換えられる回路」の正体――その中に物理的に敷き詰められた論理回路の部品――をのぞいてみましょう。