第3章:Vivado(無償版)を入れる
第2章で道具(Basys 3)はそろいました。本章では、設計データを作って Basys 3 に書き込むための司令塔となる開発ソフト Vivado(ヴィヴァド) を、Windows 11 に導入します。少し時間のかかる作業ですが、難しい判断はほとんどありません。つまずきやすい所を一つずつ、「実行するとこうなる(何が起きて、どこまで進めば成功か)」を添えながら進めます。あわてず、コーヒーでも淹れて取りかかってください。
※バージョンについて(最初に必ずお読みください): 本章は執筆時点での最新安定版である Vivado 2025.2 系を前提に手順を書いています。みなさんが作業する時点では、より新しい版が出ている可能性が高いです。インストールの大きな流れはどの版でもほぼ共通ですが、画面の細部・版番号・必要な容量・ダウンロードの所要時間は版によって変わります。実際の数値や画面は、配布元(AMD公式)の最新の案内をご自身で確認しながら進めてください。本章では、変わりやすい数値を断定しないよう努めています。
3.1 入れるのは「無償の Standard 版」 ― それで十分です
Vivado にはいくつかのエディションがありますが、本講座で必要なのは、無償の「Vivado ML Standard Edition」です(かつて WebPACK と呼ばれていたものに相当します)。これはライセンス費用が一切かからないうえ、第1章で分解した Artix-7 に対応しています。つまり Basys 3 での学習は、この無償版だけで最後まで通せます。
Vivado ML Standard(無償)← これを使う
ライセンス不要・追加費用なし。Artix-7、Spartan-7 などに対応し、Basys 3 をはじめとする入門・教育用ボードをカバーするとされます。本講座はすべてこれで進めます。
Vivado ML Enterprise(有償)← 不要
UltraScale+ や Versal といった上位デバイスを扱うための有償版。本講座の Basys 3/Artix-7 では必要ありません。間違って選ばないよう注意します。
※ライセンス体系の移行(執筆時点の注意): Vivado のライセンス体系は、2026.1 リリースから段階的な新方式へ移行するとされています。ただし無償で使える入門向けの枠は維持される見込みとされます。みなさんが作業する版によっては、エディションの呼び名や選択画面が本章と異なる場合があります。その場合も「Artix-7 に対応した、無償(費用ゼロ)で使える枠」を選べばよい、という原則は変わりません。迷ったら公式の案内で「無償で Artix-7 が使えるか」を確認してください。
3.2 事前準備 ― PCの空き容量と、AMDアカウント
インストーラを動かす前に、2つだけ準備しておきます。
(1) PCの空き容量とメモリ
Vivado は大きなソフトです。ただし、インストール時にデバイスを Artix-7(7シリーズ)だけに絞れば、容量を大きく節約できます(手順は3.4で説明します)。すべてのデバイスを入れると非常に大きくなるため、必要なものだけ選ぶのがコツです。
- ディスク空き容量: デバイスを絞っても数十GB単位の空きが必要になることが多いとされます。全部入れると100GBを超えることもあります。余裕をもって空けておくのが安全です。正確な要件は公式のシステム要件(UG973)で確認してください。
- メモリ(RAM): 学習用途では 8GB でも動きますが、16GB以上あると合成・配置配線が快適とされます。第5章でCPU(PicoRV32)を載せる頃に効いてきます。
- ネットワーク: Web インストーラは必要なファイルをその場でダウンロードします。安定した回線で、時間に余裕のあるときに行ってください(回線速度により数十分〜数時間かかります)。
(2) AMDアカウントの作成
Vivado のダウンロードとインストールには、AMD(旧Xilinx)の無料アカウントが必要です。インストーラの途中でサインインを求められるので、先に作っておくと流れが止まりません。
※アカウント作成・パスワード入力は、必ずご自身の手で: アカウントの登録やサインインは、公式サイト上で、あなた自身が行ってください。本講座はあくまで手順の流れを説明するものです。登録時には氏名・所属などの入力を求められることがあります(輸出規制に関する確認のため、国・用途を尋ねられる場合があります)。公式の案内に従って、正確に入力してください。
3.3 インストーラ(Unified Web Installer)を入手する
準備ができたら、AMDの公式ダウンロードページから Windows 用の「Unified Web Installer(統合Webインストーラ)」 を入手します。これは、本体すべてではなく小さな“呼び水”のインストーラで、実行後に必要なファイルをダウンロードしながら入れていく方式です。
- AMD公式のVivadoダウンロードページをWebブラウザで開きます(「Vivado ダウンロード AMD」で検索すると公式ページが見つかります。必ず amd.com / xilinx.com の公式であることを確認してください)。
- 最新版(執筆時点では 2025.2 系)の項目から、「Windows 自己解凍型Webインストーラ(Self Extracting Web Installer)」を選びます。
実行するとこうなる: 数十MB程度の小さな実行ファイル(.exe)が1つダウンロードされます。これはまだ本体ではありません。 - ダウンロードした
.exeを右クリック →「管理者として実行」で起動します。
実行するとこうなる: インストーラのウィンドウが立ち上がり、最初にAMDアカウントのサインインを求められます。
3.4 インストール本番 ― 画面の流れと選ぶもの
ここからが本番です。インストーラの案内に沿って、次のように進めます。版によって文言や順番が多少前後しますが、「製品=Vivado」「エディション=ML Standard(無償)」「デバイス=Artix-7 を含める」「ケーブルドライバを入れる」――この4点を押さえれば大丈夫です。
- AMDアカウントでサインイン: 3.2で作ったアカウントのメールアドレスとパスワードを、インストーラの画面で入力します。
実行するとこうなる: 認証が通ると、ライセンス同意の画面に進みます。 - ライセンス(EULA)に同意: 3種類ほどの利用規約が表示されます。内容を確認し、同意のチェックを入れて次へ進みます。
- 製品を選ぶ: 「Vivado」を選びます(埋め込みソフト開発の Vitis は本講座では不要です)。
- エディションを選ぶ: 「Vivado ML Standard」(無償)を選びます。ここで Enterprise を選ばないよう注意してください。
- デバイス(対応FPGA)を絞る: インストールするデバイス群を選ぶ画面で、不要なデバイスのチェックを外し、Artix-7(7シリーズ)を含めるようにします。これでダウンロード量とインストール容量が大幅に減ります。Basys 3 の Artix-7 さえ入っていれば本講座は進められます。
- 「Install Cable Drivers(ケーブルドライバをインストール)」にチェック: これはBasys 3 をPCに認識させるために重要です。必ずチェックを入れてください(後述3.5のトラブル回避に直結します)。
- インストール先を決める: 既定の
C:\Xilinxのままで構いません。パスは短く、日本語・空白を含まない場所が無難です(トラブル予防)。 - インストール開始: 確認画面で内容を見て、開始します。
実行するとこうなる: ダウンロードとインストールが始まり、選んだ内容と回線速度により、数十分〜2時間程度かかります。進捗バーが100%になり「完了」の表示が出れば成功です。途中でPCがスリープしないよう設定しておくと安心です。
つまずきどころ(容量・時間で慌てない): 「ダウンロードが全然終わらない」「容量が思ったより大きい」と感じても、多くは異常ではありません。Vivado はもともと大きなソフトです。デバイスを絞り、時間と空き容量に余裕をもって臨めば、たいてい問題なく完了します。途中で失敗した場合も、空き容量とネット接続を確認して入れ直せば回復できることがほとんどです。
3.5 Basys 3 を認識させる ― ケーブルドライバの確認(Win11の急所)
Windows 11 で Vivado を使うとき、最も多いつまずきが「ボードが認識されない(ケーブルドライバ)」問題とされます。先回りで押さえておきましょう。
- まずはインストール時のチェックを確認: 3.4の手順6「Install Cable Drivers」にチェックを入れていれば、通常はドライバが入っています。
- 入っていなければ手動で実行: ドライバを入れ忘れた場合は、Vivado のインストール先にあるドライバ導入用バッチを管理者として実行します。場所はインストール構成により多少異なりますが、おおむね次のような位置にあります(実物のパスはご自身の環境で確認してください)。
(例)C:\Xilinx\Vivado\<バージョン>\data\xicom\cable_drivers\nt64\ の中の install_drivers 系バッチを「管理者として実行」 - それでも認識しないとき: 次を順に試すと改善することが多いとされます。
- 別のUSBポートに挿し替える(とくに USB 3.0 ではなく USB 2.0 のポートで改善する例が報告されています)。
- ケーブルを疑う(第2章で触れた「充電専用ケーブル」だと認識されません。データ通信対応のものへ)。
- デバイスマネージャーを開き、ドライバの競合や「!」マークが出ていないか確認する。
※これらのトラブルと対処は、第7章(トラブルシューティング)にも一覧でまとめます。いま全部を完璧にできなくても、第4章で実際に書き込む段になって認識しなければ、ここへ戻ってくれば大丈夫です。
3.6 起動して、初期画面まで確認する
インストールが終わったら、Vivado を起動して「ちゃんと入ったか」を確認します。
- スタートメニューから Vivado <バージョン> を起動します。
実行するとこうなる: 起動スプラッシュのあと、Vivado のスタート画面(Quick Start などのメニュー)が表示されれば、インストールは成功です。 - 余裕があれば、スタート画面で新規プロジェクト作成へ進み、対象デバイスの選択画面で Artix-7(XC7A35T)が選べるかを確認しておくと安心です(ここで見つかれば、Basys 3 向けの設計に必要なデバイスが入っています)。確認したらプロジェクトは作らずに閉じてかまいません。
※Basys 3 のボード定義ファイル(任意): Digilent は、Basys 3 を「ボード」として一覧から選べるようにする定義ファイル(ボードファイル)を配布しています。これを入れておくと、第4章以降のプロジェクト作成が少し楽になりますが、必須ではありません(デバイス XC7A35T を直接指定する方法でも進められます)。導入する場合は、Digilent公式の最新の手順に従ってください。第4章では、ボードファイルがなくても進められる方法を基本に解説します。
💡 コラム:Vivado は、裏で何をしてくれているのか
Vivado は、私たちが書いた回路の設計図(RTL)を受け取り、それを Basys 3 のFPGAで実際に動く形へと、いくつもの工程を通して翻訳してくれる司令塔です。具体的には、次のような作業を裏側でまとめて行ってくれます。
論理合成(RTLを第1章で見たLUTやフリップフロップへの割り当てに変換)→ 配置配線(チップ内のどこに置き、どう繋ぐかを決める)→ ビットストリーム生成(Basys 3 へ書き込む設定データを作る)。私たちがRTLと .xdc(ピンの対応)を用意すれば、あとはVivadoが「設計図」を「実物の回路」へと仕上げてくれる――そういう関係です。第4章では、いよいよこの Vivado に、自分で書いたLチカのRTLを通してみます。
これで準備はすべて整いました。道具(Basys 3)と司令塔(Vivado)がそろった今、次の第4章では本講座の最初の山場――自分で書いた素のVerilog(RTL)を、Basys 3 で実際に光らせる――に挑みます。テンプレートも特別な殻も要りません。FPGAそのものの第一歩を、自分の手で踏み出しましょう。