第2章:Basys 3 を用意する
第1章では、FPGAの中身(Artix-7)を分解して「書き換えられる回路の正体」を見ました。本章からは、いよいよ手を動かす準備に入ります。まずは道具をそろえるところに集中しましょう。具体的には、本講座で使うFPGAボード Basys 3 を手元に用意し、「何が載っているか」を把握して、PCにつなぐ直前までを確認します。
※本章は「ボードを用意する」ところまでです。 設計ソフト(Vivado)の導入は、分量が大きいので次の第3章にまるごと分けました。本章では、Vivadoをまだ入れていなくてもできること――ボードの中身を知り、電源を入れて「生きているか」を確かめるところまで――を、あわてず進めます。
2.1 Basys 3 とは、どんなボードか
Basys 3 は、Digilent社が販売している入門用のFPGA開発ボードです。第1章で分解した Artix-7(XC7A35T-1CPG236C)が中央に載っていて、そのまわりに、学習に必要なスイッチ・LED・表示器・各種ポートが最初から実装されています。だから、はんだ付けや追加部品なしで、買ってすぐにLチカやカウンタを試せるのが大きな利点です。本講座が Basys 3 を選んだ理由も、ここにあります。
Basys 3 の主な搭載物(概略配置・実物はボードのシルク印刷で確認)
┌──────────────────────────────────────────────────────────────┐
│ [電源スイッチ] [4桁 7セグLED] [Micro-USB端子] │
│ (電源+書き込み)│
│ [VGA端子] │
│ Artix-7 [Pmod ポート×4] │
│ [USB-A端子] (XC7A35T) (12ピン×3+ │
│ (HIDホスト) アナログ用×1) │
│ │
│ ● ● ● ● ● ← 5個のプッシュボタン(上下左右+中央) │
│ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ ← 16個のLED │
│ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ▟ ← 16個のスライドスイッチ │
└──────────────────────────────────────────────────────────────┘
本講座でとくに使うのは、次のものです。いまは「こういう部品が、ボードのどこかに載っているんだな」という程度の把握で十分です。実際にどのピンとつながっているか(ピン割り当て)は、Lチカを動かす第4章で確認します。
16個のLED と 16個のスライドスイッチ
LチカではこのLEDを光らせます。スイッチは、回路に「0/1」を手で入力する道具。Lチカ・カウンタの入出力はこれだけで足ります。リファレンスマニュアルによれば16個ずつ用意されています。
5個のプッシュボタン
押すと「1」、離すと「0」になる瞬間入力。リセット信号(rst_n)などに使えます。上下左右+中央の5個があるとされます。
100MHz の発振器(クロック源)
ボード上に固定で載った「時計の親玉」。100MHzの信号がFPGAのピンW5に入っています。第3章のLチカ(カウンタ)は、このクロックで動きます。周波数とピンは第4章で正確に扱います。
Micro-USB 端子(1本で電源+書き込み)
PCとボードをつなぐ唯一の必須ケーブル。電源供給と、設計データの書き込み(プログラミング)を1本で兼ねます。付属のMicro-USBケーブルが使えます。
※その他のポート(いまは使いません): Basys 3 には、VGA出力・USB-Aホスト(マウス/キーボード用)・4桁7セグメントLED・Pmod拡張ポート(12ピン×3+アナログ入力用×1)も載っています。これらは応用編の話なので、本講座のLチカ・カウンタ・CPUでは基本的に使いません。「いろいろ拡張できるんだな」と頭の隅に置いておけば十分です。
2.2 ボードの入手 ― 何を、どう手に入れるか
Basys 3 は、Digilent(およびその販売代理店)から購入できます。入門用ボードとして広く流通しており、学生・教育向けの価格帯で提供されているとされます。日本国内でも、電子部品の代理店や通販で取り扱いがあります。
※価格・在庫・購入経路は変動します(執筆時点の注意)。 本講座では具体的な金額を断定しません。購入時は、Digilent公式や正規代理店の最新情報をご自身で確認してください。大学によっては、AMDの大学向けプログラムや、研究室・授業を通じて入手できる場合もあります。所属先に貸出・購入の制度がないか、先に確認すると無駄がありません。
最低限そろえるもの
(1) Basys 3 本体、(2) Micro-USBケーブル(本体に付属することが多い/データ通信対応のものを使用)、(3) Windows 11 のPC。まずはこの3つだけでLチカまで到達できます。
急いで買わなくてよいもの
Pmod拡張ボードや外付けの周辺機器は、応用に進むときで十分です。最初から買いそろえる必要はありません。本体とケーブルとPCから始めましょう。
2.3 PC側の準備 ― いまは「Windows 11 のPCがある」ことだけ確認
本講座は Windows 11 での操作を前提に解説します。設計ソフト(Vivado)は容量が大きく、PCにもある程度の余裕(ディスク空き容量・メモリ)が必要ですが、その具体的な必要スペックと導入手順は、次の第3章でまとめて確認・実施します。本章の段階では、次の2点だけ押さえておけば大丈夫です。
- Windows 11 のPCが1台あること。 ノートでもデスクトップでも構いません。空きディスク容量には余裕があるほど安心です(目安は第3章で示します)。
- USB端子が空いていること。 Basys 3 とPCは Micro-USBケーブル1本でつなぎます。変換アダプタ経由でも構いませんが、データ通信に対応した接続であることが必要です(充電専用ケーブルは不可)。
つまずきどころ(ケーブルの罠): 手元のMicro-USBケーブルが「充電専用」だと、電源は入ってもPCがボードを認識しません。書き込みの段になって「ボードが見つからない」と悩む原因の定番がこれです。ボード付属のケーブル、またはデータ通信対応と明記されたケーブルを使ってください。
2.4 箱を開けたら ― 電源を入れて「生きているか」を確かめる
ボードが届いたら、Vivadoを入れる前に、ボード単体が正常に動くかを確認しておくと安心です。Digilentのボードは、出荷時にデモ(自己テスト)回路が書き込まれていることが多く、PCにつないで電源を入れるだけで動作を確認できます。
- 書き込みモードのジャンパを確認: ボード上の「書き込みモード選択」ジャンパが、フラッシュメモリから起動する位置(出荷時の初期設定)になっていることを確認します。正確な位置・ラベルはボード上のシルク印刷と公式リファレンスマニュアルで確認してください(初期設定のままで問題ないことが多いです)。
- Micro-USBでPCと接続: 付属(またはデータ通信対応)のMicro-USBケーブルで、Basys 3 とPCをつなぎます。これで電源も供給されます。
- 電源スイッチをON: ボード上部の電源スイッチをONにします。電源表示のLEDが点灯し、出荷時のデモ回路が動き出します。
- 動作を確認: デモが動いていれば、スライドスイッチを動かすと対応するLEDが光る、7セグメントLEDに何か表示される、といった反応が見られます(具体的な挙動は出荷時期により異なります)。何らかの反応があれば、ボードは生きています。安心して次章のVivado導入に進めます。
※反応がないときは慌てずに: 電源LEDも点かない場合は、まずケーブル(充電専用でないか)と電源スイッチの位置を疑います。電源は入るのにデモが動かない場合は、過去に別の設計を書き込んでデモが消えている可能性もあります(異常ではありません)。いずれにせよ、ボードの確定的な故障判断は急がず、第3章でVivadoから自分で書き込めるようになってから改めて確認すれば十分です。
💡 コラム:なぜ「ボード」を使うのか ― FPGAチップ単体ではなく
第1章で分解したFPGA(Artix-7)は、本来は数百本の端子が出た小さなチップ単体です。これを動かすには、安定した電源、クロック発振器、PCとつなぐための書き込み回路、そして人間が結果を見るためのLEDやスイッチ……と、周辺の回路を自分で用意しなければなりません。初学者がここから始めると、FPGAの学習にたどり着く前に力尽きてしまいます。
Basys 3 のような「ボード」は、これら周辺一式を最初から正しく配線した状態で提供してくれます。 おかげで私たちは、「回路の設計(RTL)」と「外部ピンとの対応づけ」という、FPGA学習の本丸だけに集中できます。シリーズ第1弾のKiCad講座で学ぶ「基板(PCB)設計」は、まさにこの“周辺一式の土台”を自分で作る技術です。いまはありがたく完成品のボードに乗り、学習が一巡したら、第1弾で学んだ知識で「自分のFPGAボードを設計する」という展開も見えてきます。
道具はそろいました。次の第3章では、設計データを作って Basys 3 に書き込むための司令塔――無償の開発ソフト Vivado――を、Windows 11 に導入します。分量はありますが、つまずきやすい所を一つずつ押さえながら進めます。